【GEPR】原子力の前に恐怖、無知、異常な規制が立ちふさがる

2013年10月24日の記事の再掲です。

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ウェード・アリソン
オックスフォード大学名誉教授(物理学)

GEPR版

100億人が住む地球に必要なこと

地球が将来100億人以上の人の住まいとなるならば、私たちが環境を扱う方法は著しく変わらなければならない。少なくとも有権者の一部でも基礎的な科学を知るように教育が適切に改善されない限り、「社会で何が行われるべきか」とか、「どのようにそれをすべきか」などが分からない。これは単に興味が持たれる科学を、メディアを通して広めるということではなく、私たちが自らの財政や家計を審査する際と同様に、正しい数値と自信を持って基礎教育を築く必要がある。


特に、環境を汚染するガス、石炭、石油の代替となるしっかりしたエネルギー源を見つけなければならない。部分的には貢献するかもしれないが、風力と太陽光には荷が重過ぎる。

これからシェールガスの産出で豊富になるかもしれない天然ガスは、その増産予想が正しいかどうかに関わらず、大気を汚染する化石燃料であることを認識すべきだ。一方で注目されるべきだが、理想的なエネルギー源である原子力がある。

しかし唯一の困難は、国際的世論が原子力や放射線という言葉への言及に、心を惑わせてしまうことである。その危険情報を正当化する科学的理由はまったくない。「原子力は危険である」、あるいは「理解するのが非常に難しい」と、多くの人が考えるかもしれないが、それはまったく間違っている。事実は比較的単純で、より多くの人がその事実を知らなければならない[注1]。

繰り返される技術の変化についての恐怖

ある技術が変化することについての不安は、新しいものではない。しかし安全面に関する本当の疑問がある場合でも、通常それは必要不可欠な利益をもたらす。例えば、1865年のイギリスの有名な赤旗法は、乗り物の道路交通の速度を徐行へと下げた。法律を推進した「反対者」のロビー活動は、事故を恐れ、「馬を怖がらせたくない」というものだった!。 安全への懸念は現在も続いているものの、1896年にこの法律が廃止されなければ現代の繁栄はまず無かったことを振り返る価値はあるだろう。


紀元前2万5千年–火反対党派による最後のデモンストレーション

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さらに意義深い例は、2万5000年前に、人類が最初に火を使用したときに起こっただろう。炎が燃え移り、「連鎖反応」で破壊が広がる-最初は危険だと感じただろう。動物はパニックを起こし逃げ去ったが、原始人は自然に感じる恐れを乗り越え、頭脳を使って学習した。

当時を想像すると、火の使用を反対する党派には、それが死や破壊を招くといった説得力のある主張があっただろう。しかし彼らは支持を失い、火の賛成派とは異なり、食事で生ものしかない、寒くじめじめした家に帰っていっただろう。その危険にも関わらず人類の文明が繁栄するには火が必要だったのだから、これは重要な結果である。

福島事故での放射能リスクの実態

現在の原子力技術についての議論はひとつの著しい点において異なる。少なくとも火災や道路交通と比べ、危険がないことである。福島において、原子炉は破壊されたかもしれないが、死亡者はなく、放射線による重大な犠牲者はいない。今後も放射線による発がんもないだろう。

事故後数週間でこれは予測されたのだが[2]、公式の国際的なコンセンサスが同様の結論に達するには2年以上かかった[3、4]。その間、節度のないことだがメディアは誤報で人々をおびえさせ続けた。恐怖による日本の死者数は、強制避難の結果として高齢者だけで1000人を上回った[5、6、7]。世界中で原子力エネルギーに対する不合理な不安が、現在および将来のエネルギー供給を崩壊させ、世界経済に損害を与え、化石燃料の使用を増やしている。

生命への核放射線の影響についての多くは知られている。放射線療法によるがん治療では1世紀以上高線量の放射線が使用されてきており、中等量が放射線スキャンで使用されている。

低線量の被ばくの健康影響の紹介

世界中の病院で一般市民が、体外からあるいは同様の量を注入あるいは移植で体内から、放射線性線源の治療を受けている。体内に放射能があるというのはぞっとするかもしれないが、どの身体もみな自然に放射性を帯びている。生命は常にこのようであった世界で進化してきたのである。生物は多くの防御メカニズムを持ち、放射線により損傷を受けた細胞を修復しあるいは置き換える。その方法は数100万年もの前に学んでいる。これは、人間でも、動植物に於いても細胞レベルで、すべて潜在意識で起こる。

1987年、福島で懸念を生じさせたのと同じ、セシウム137を使用した放射線療法装置が、ブラジルのゴイアニアで盗まれた[8、9]。泥棒たちはその線源をあけ、彼らの友人と隣人たちはそこから放たれる青い光に喜んだ。彼らはそれを身体に塗りつけ、彼らの家や作業場に広げた。

2週間後にこの事故の本質が分かった。合計249人の人々が汚染され、そのうち28人が熱傷に苦しみ、中には外科措置を必要としたものもいた。外部被曝以外に50人の患者は100万Bq(ベクレル)以上の内部被曝を受けた。2週間以内に4人が放射線障害で死亡したが、この25年で誰もガンにより死亡していない[10]。福島の誰よりも1000倍以上の内部被曝を受けているのだが、おかしな統計ではなく、正確に「ゼロ」である。

原子炉が全壊したチェルノブイリでさえ、放射線に直接起因する死亡は50未満であった。当初の消防士達の放射線障害による致死28名と甲状腺ガンによる15名の死亡である[12]。しかしながら、チェルノブイリでも、放射線への恐怖が苦しみと犠牲の主要因であった。

とはいえ、日本ではこうした国際的なレポートは読まれていないようである[13]。このように、過去の道路交通と火の「反対者」が堅固な安全への議論を有していたとしても、今日の原子力の「反対者」にはない。

例えば紫外線のような強烈な電離放射線はガンを引き起こすことがあり、皮膚がんは人口100万人あたり30人の死亡の原因となっている[14]。これは道路交通(100万人あたり110人の死亡[15])より低いが、火災(100万人あたり11人の死亡[16])より多く、どの原子力事故による放射線よりも多い。

自身の懸念に忠実であるために、放射線について心配する人々は、彼らの皮膚を保護するために、休暇を太陽の下ではなく星空の下あるいは地下で過ごすべきであろう。幸いにも、大部分の人はバランスがとれており、他の皆と夏季休暇を楽しみつつ単に過度の肌の露出を避ける。

核兵器による悪しきイメージ

真実は、核放射線が特有なのは、それが冷戦時代に受けた烙印を人々が心にまだ持っているから、というだけである。しかし、核虐殺という放射線のプロパガンダ画像には欠陥がある。広島と長崎の爆弾による実際の爆風と火は、生存者の過去60年にわたる健康記録によって確認できるように、放射線の後の影響より100倍致命的であった。

放射性廃棄物とテロリストによる核の脅威についてはどうだろうか?。これらは、「放射線が危険である」という範囲で危険なだけである。放射線の危険性が過大評価されてきているならば、廃棄物はより問題がないといえる。テロリストによる核の脅威は、放射線の危険自体より一般の人々のパニックを対処する問題ということになる。

核廃棄物はやっかいなものだが、火やバイオ廃棄物で伝染する病気のように拡大、感染はしない。原子力エネルギーは非常に凝縮されているため、ほとんど燃料を使わず、廃棄物も少ししかつくられず、それは化石燃料のおよそ100万分の1にすぎない。高線量の廃棄物は冷却され、(未使用の貴重な燃料取り出すため)再処理し、数年後に埋める必要があるが、それほど大変な仕事ではない。

放射線、恐怖と実際のギャップを埋めよう

しかし、主要な問題に戻ると、なぜ一般の人々の恐れと放射線からの実際の危険 の間にはここまでのギャップ‐大きな隔たり‐があるのだろうか?。公式の広報は国家の安全基準に関係があり、同様に国際勧告に基づいている。

それは不適当に「合理的に達成可能な限り低く(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」設定することを勧告している。最近の毒物学のレポートはこの原則がどれほど誤りうるかということを強調した[17]。それは、リスクと関係なく一般の人々の恐れを和らげる単純な試みである。

残念なことに、それに基づく規制は、あらゆる事故への反応(避難、食品規制)と一般の認識(個人的、社会的ストレス、経済的信頼)のスケールをも設定した。恐れを和らげることはできず、利益のない多大な苦しみが生まれた。原子力発電所の閉鎖による化石燃料の余分な廃棄物の放出が損害に加わり、原子力計画への安全コストの追加は一般の人々の恐怖症に対する非合理的な反応である。

安全専門家の個人的な証言は、非常に小さい放射線の引き起こすリスクよりも危険な産業廃棄物が、いかに日常的に受け入れられているか語っている[18、19]。これが、今日の国際的安全基準に勧告されるALARA基準の独断的な使用の結果である。

提言–可能性のある技術、原子力を利用すべき

それでは、核技術に対する我々の態度はどのようにあるべきだろうか?。私たちは、石器時代の祖先が火でしたように、考え、知識を応用すべきだ。彼らは見事にバランスのとれたジレンマに直面したが、今日我々が原子力に対してしているようであるよりもよりよい意思決定をした。

権威は科学に基づいた確信の代替ではなく、国連は、様々な国際機関(UNSCEAR, ICRP, WHO, IAEA その他 [20])を通して、ALARAに基づいた放射線の安全が根本的に欠陥があり危険であることを受け入れるべきだ。(また、何故これらの委員会がこれほど多くあるのか尋ねるのも当然だろう。)

放射線をめぐる厳しい現在の国際勧告を差し置き、より現実的な安全基準でより安価な核技術を受け入れることを決断する国があるかもしれない。このようなイニシアチブを受け入れるのが遅すぎる他国が損をする一方で、そうした取り組みをする国に経済上の利点をもたらすだろう。放射線を特別扱いする理由はない。その他の分野と同様に実際のリスクに関連した安全基準へと共に進むのがよりよいだろう。

電力だけでなく、原子力技術は淡水化により真水を無制限に、また放射線照射による無害な食料保存により安価な食料を提供することができる。経済的発展に技術による革新の機会が必要であるが、ALARA基準の考えが立ちはだかっている。この過度の安全基準が原子力技術の明白なコストの要因である。

備考と参照
いずれも英語
[1] 更なる議論は、筆者サイトRadiation and Reason:を参照。
[2]BBCニュースへの筆者寄稿「 Viewpoint: We should stop running away from radiation
[3]WHOの福島報告
[4] 国連放射線の影響をめぐる科学委員会報告
[5]エコミスト記事の転載
[6]Ichiseki, H. Lancet 381, 204, (2013)
[7]Yasumura, S.et al. Public Health 127, 186-188, (2013)
[8]ゴイアニア事件、IAEAの報告書1
[9]ゴイアニア事件、IAEAの報告書2
[10]ゴイアニア事件資料1http://goo.gl/oTAjZ
[11] ゴイアニア事件資料2
[12]チェルノブイリフォーラム(2002年から05年までの国際共同研究)報告書
[13]医学誌BMJ記事テンプル大学資料
[14] 2009年の米国のガン統計
[15]2009年の米国の統計、Wikipediaより
[16]2009年の米国の統計。連邦緊急事態管理庁(FEMA)による
[17]サイエンスダイアリー、記事「Toxicologist Says NAS Panel ‘Misled the World’ When Adopting Radiation Exposure Guidelines
[18]Chaplin, K Senior inspector in the nuclear industry “I am watching as radiological protection dogma, in particular ALARA, stops the nuclear industry dead in its tracks. It is hard to prevent this, but I am trying” Extract from an email of Dec 2012, quoted with permission http://goo.gl/zm82t
[19]Iskayn, H. Design Engineer “For the nuclear regulatory death by hot gas was satisfactory so long as the body could be buried without radiation restrictions. Accordingly, the design stressed radiation ALARA and had almost no concern about the hazard of hot gas.” Extract from a post on LinkedIn Nuclear Safety Group, 20 May 2013, quoted with permission
[20]United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, International Commission for Radiological Protection, World Health Organisation, International Atomic Energy Agency. There are others, as well as many influential national committees.