企業はネット炎上の責任をどこまでとるべきか --- 中村 伊知哉

アゴラ

ホテルにスポーツ選手とモデルが来たことに興奮したバイトがツイートして炎上。通販サイトの社長がユーザをdisって炎上。いじめ事件で、加害者も保護者も先生もみんな炎上。病院の対応に腹を立ててブログにぶちまかし炎上した県議が自殺。


この夏は、飲食店が炎上まつり。コンビニのバイトがアイスクリーム用冷蔵庫に入った写真をフェイスブックに投稿し、炎上。店は休業。ステーキチェーンのバイトが冷蔵庫に入った写真をツイート、炎上。店は閉鎖、損倍請求を検討。

女の子だって負けてません。ピザ店の冷蔵庫に入った写真をブログに投稿、炎上。店は休業、食材廃棄、清掃・消毒。よく冷蔵庫に入った夏でした。猛暑でした。

暑苦しいのも。バイトがピザ生地で顔を覆った写真をツイート、炎上。こちらは廃棄食材だったので休業などはなかったけど、損倍請求を検討。 

客が起こす事例も。金沢の餃子店で、客が全裸でカウンター席に座って写真撮影。店舗は営業停止、損害賠償を請求。客側は合意の上の行為と言っていたらしいが、警察は威力業務妨害と公然わいせつの疑いで2名を逮捕。民事だけでなく、刑事事件に発展。

炎上大国の日本。個人発信量が世界一多く、だからバルス祭りも起こる国。ビジネスや文化を産む副作用として、炎上は避けがたいのかもしれません。でも、対応策を講じなければ大変です。とはいえ、幸か不幸か日本が進んでいるので、海外を頼りにできません。自分で考えなくちゃ。

そこで今年も炎上対策のニューメディアリスク協会がNRAフォーラムを開催しました。10月10日、経済産業省佐脇情報経済課長、総務省松井電気通信利用者情報政策室長らにお越しいただき、議論しました。500人の会場が立ち見であふれるほどの熱気。この問題に対する企業のかたがたの関心の高さを感じました。

佐脇・松井両氏は、ソーシャルメディア利用の学校ガイドラインや公務員ガイドラインを紹介しつつ、リテラシー教育の重要性を強調していました。最近の炎上事例ってスマホが圧倒的に多いんですが、PCからネットに入って来たぼくらと違って、メールや電話の感覚でソーシャル入りするんで、友だちに告げたことが拡散して炎上するなんて、という認識の薄さが根本にありそう。リテラシーは大事です。

キャリア官僚だってひとごとではない。9月末には経済産業省の50代のキャリア官僚、佐脇課長の先輩に当たりますが、被災地を貶めたネット上の2年前の発言がむしかえされ、停職2カ月の懲戒処分をくらいました。アルバイトだけじゃなく、エリートだって、今のツイートだけじゃなく、過去の発言だって、炎上の種になるのです。

パネルで議論したのは2点。まず、「企業責任はどこまでか。」

従業員がしでかしたことで、閉店に追い込まれる。損害賠償はどう考えればいいのか。いや、お客様が引き起こすケースもある。損害賠償と刑事の相場は。そのとき、企業責任は。

チェーン展開している大企業ならまだ「リスク」として計算できるかもしれません。でも先日、バイトが洗浄機に入った写真がもとで、あるそば屋が破産に追い込まれましたが、経営の元さえ絶たれるような事態はリスクとして高すぎます。

バイトが冷蔵庫や洗浄機に入ったことで閉店となるのも、私の感覚では行きすぎに映ります。これは会場の方々も大勢がうなづいていました。しかし問題は、企業側の心持ちというより、消費者というか、ネット民というか、それらを含むぜんたいの空気感。ああ、いやな言葉、うまく表現できないぼくの能力のせいですが、安心と安全のためにはそこまで誠意を示さないとお許しをいただけないのではないかと、あっち側にもこっち側にも思わせる空気感。

土下座を強要する半沢直樹社会。

10月には札幌の衣料チェーンで店員に土下座をさせ投稿した女性客が逮捕され、大津で教師に土下座させた母親が逮捕されました。土下座を求める空気にも限界があり、だけど、それがどういう塩梅に落ち着くのか、落ち着かないのか、見通せません。

一方、バイトや従業員は、つぶやき一つで、クビになるだけならまだしも、損害賠償を求められる可能性もあります。それも、この夏の事例では、2000万円だとか5000万円だとか、そんな数字が飛び交ってます。億ツイートなんてのも登場するでしょう。それはそれで行きすぎと思いません?

会社の、あるいは従業員の責任限界について、あるいはコストの相場について、民事の事例や判例を待つ必要もありましょう。同時に、何らかのガイドラインを作成する必要もあるかもしれません。

欧州では「忘れられる権利」が議論されています。ネット上のプライバシー保護を巡る新しい考え方です。日本でもこうした議論を始める時期です。一方、このまま放火や炎上が続き、応仁の乱の都みたいに焼け野原が広がるとなれば、プライバシー侵害罪や、いっそ「炎上罪」の必要性だって台頭しかねません。

もう1点は「リテラシー教育」。

ぼくも参加している安心ネット協議会などを中心に、学校でのリテラシー教育にはずいぶん厚い対応がとられるようになりました。でも、4年前に青少年ケータイ問題が高まったころ以降の子どもたち向けなんです。炎上を引き起こす大学生や社会人向けの対策は逆にまだこれから。ガイドラインを作り、普及させることに力を入れることはもちろんですが、これは企業だけではムリ。学校、家庭を含めた社会全体の取組にしませんと。

問題は、ケータイからスマホへ、ツイッターからLINEへ、という具合に、ツールもメディアもどんどん変わっていくことです。それは大人が知恵をしぼってもダメで、若いユーザが自分たちでリアリティーのある防衛策や解決策を体得していくしかないんだろうと思います。

現在のガイドラインもいくつか目を通しましたが、「間違いを正す」とか「他者に敬意を」なんてことが書いてある。リアリティーがありませんよね。
「炎上一発、クビ一生」
「炎上一発、一億円」
「炎上一発、即逮捕」
みたいなことを掲げたほうがいいのかもしれません。スキな方法じゃないけど。鎮静剤として。

企業にとって、炎上には、防火と消火です。防火のためにリテラシー教育。消火のためには素早いアクション。今回は前者に集中して議論しましたが、後者についてもぼくらニューメディアリスク協会で対策を練っております。ご質問はぜひこちら事務局まで。
 http://newmediarisk.org/


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。