中国で「袖の下」はいつまで通用するか --- 岡本 裕明

アゴラ

今から20数年前、ここバンクーバーで私が推進していた不動産開発事業はその許認可取得に大幅な時間がかかり遅延、本社側からの厳しい追求に苦しい説明を続けていました。そんな時、香港勤務経験数十年の部長さんが私に「袖の下でどうにかならないのかね?」と真剣に聞かれ固まってしまいました。「無理です。」と即座に答えると「お前には聞かん。」といって許認可担当のカナダ人に直接訴えたところ「ここは香港ではありません」と一蹴され「落着」したことがあります。


建設会社というのは贈収賄の宝庫とも言われていましたがその事実はトップの秘書を経験した私も知りません。トップに絡ませないようにやるのだろうと思いますが、私が勤めていたその会社は少なくとも誰もしょっぴかれたことはなかったと記憶しています。

贈収賄は貰うほうにその弱さがあるのが世の常でしょう。なぜ貰うかといえば金が欲しいわけです。なぜ、この会社のために入札価格をばらしたり便宜を図るなど尽力しなくてはいけないのか、という役人の自問自答に対し、ご馳走になったり付け届けがあればそのモチベーションが一気に高まることにあったのでしょう。

最近の銀行の給与水準は世間の目もありずいぶん下がってしまいましたが、昔はかなり高い水準にありました。理由のひとつにばかばかしいと思うかもしれませんが、「盗む気を起こさせない」というのがありました。銀行は他人様のお金を扱っているのだから盗む気がいつ起きるとも限らない、だから生活に窮せずある程度の余力のある給与を払うことが必要なのである、というよくわからない説明を受けたことがあります。

日本ではその贈収賄も近年、あまり聞かなくなったのは日本が大人になったからか、贈収賄に対する目が厳しくなったか、怖くて出来なくなったかそのあたりに落ち着くのでしょう。しかし、お隣中国ではいまだにそれがないとビジネスが出来ないという仕組みはかなり健在のようです。

そんな中、9月にはトヨタ系の自動車部品メーカー、フタバ産業の元専務が中国の贈収賄で逮捕される事件がありましたが、日系企業にとっては要注意な事態だと思います。特に日本を含む外国企業への自由化が今回の三中全会で加速されましたがそれに伴い、外国企業と中国国内企業の競争も激しくなります。その際、足を引っ張るのは簡単で外国企業が賄賂を渡したことを内通すればよいだけの話なのです。

一方の中国国内企業からすれば「習近平氏の求めるクリーンで収賄のない世界は表向きの話で99%の中国人はそんなこと誰も現実のものだと思っていない」とある上海の中国人ビジネスマンからはっきりと言われました。氏曰く、「共産システムは個人のモチベーションがまったく上がらない仕組み。だからこそ、このシステムが続く限り賄賂は続く」と断言されたことに思わずうーんと唸らざるを得ませんでした。

賄賂がないとビジネスが出来ないアジアの世界は北米に長くいるといよいよ異次元の世界の感が強くなってきます。勿論、こう書けば北米はそんなにクリーンなのか、というご批判を受けるのですが、北米の土俵ならば贈収賄の件数は比較にならないぐらい少ないのではないでしょうか? 直接比較は出来ないのですが、一例としてアメリカには外国の政府機関への贈収賄を取り締まる法律のひとつであるFCPA(連邦海外腐敗行為防止法→日本の不正競争防止法に近い)があります。これは規制が厳密であり罰金などのペナルティの厳しさもあり2009年から11年の3年で訴追件数(除くSEC分)がわずか100件程度しかないようです。そう考えれば中国などで起きている贈収賄がいかに常軌を逸脱しているかお分かりいただけるでしょう。

中国などアジアにおける企業の生き残り競争は厳しいものでありますが、裏ルートがまかり通るその世界は別の世界に感じます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。