移民に頼らず「脱少子化」は可能か? --- 東猴 史紘

アゴラ

(1)少子化は国難である

安倍政権は少子化は国難と位置づけている。最近では少子化対策のために全国都道府県に「少子化危機突破基金」を創設する案をまとめたり、「婚活・街コン議員連盟」を設立したり、その動きは活発である。

しかし不思議と少子化対策としての「移民」についてはあまり議論がなされていない。一国の経済成長率=人口成長率+一人当たり実質GDP成長率(労働生産性)であることから、少子化問題としての移民政策はわが国の経済成長にも関わる避けては通れない議論である。


一方で移民受け入れには反対する声が多いのも事実である。私自身も、できることなら移民を受け入れることなしに脱少子化を実現してほしいと思っているが、ここで改めて移民に頼らず脱少子化は可能かを考えてみたい。

(2)脱少子化に必要な移民受け入れの数

少子高齢社会と人口減少が同時に進んでいるという危機にある中で、仮に移民に頼るとしたら受け入れなくてはいけない人数はどの程度なのだろうか。下記の2つの試算を見る。

2000年に国連が公表したレポート(NEW REPORT ON REPLACEMENT MIGRATION ISSUED BY UN POPULATION DIVISION)によると、生産年齢人口(15-64歳)維持を目標とするシナリオだと1995-2050年の間に約3,350万人の移民受入が必要で、年間約60.9万人を受け入れ続けないといけないと当時試算している。総人口維持するためだけでも2050年までに約1,700万人、年間にして約38万人の受け入れが必要と試算している。

また、内閣府が2003年に発表した「平成15年経済財政白書」でのデータによると、生産年齢人口(15-64歳)を維持するためには年間約64万人の外国人・移民の受け入れが必要であると当時試算している。総人口を維持するためだけでも約34万人が必要とのことだ。

もちろん、どちらの試算も10年前のものではあるが、概ね生産年齢人口を維持するためには年間約60万人程度、総人口を維持するには年間30万人程度は最低でも必要ということが分かる。

現在のわが国の外国人登録者数は全ての年代合わせても207万人であるから、いずれにしても、かなり途方もない人数を受け入れなくてはいけない。

(3)移民で成功したと言える国はまだない

しかし、移民を受け入れたとしてもバラ色の未来が約束されているわけではない。それは実際に移民を受け入れた諸外国の事例を見ても明らかである。

例えば、日本と同じ少子高齢化に悩むシンガポールは今年初旬、2030年までに人口を1.3倍にし、新しい市民を年間15,000-25,000人受け入れると発表したが、約半年後には移民が原因で雇用などの分野で社会不安が起こり国民が激怒。外国人労働者への規制を強化し、受け入れの抑制せざるを得ない状況に追い込まれている。

他の国々に目を向けてみても、米国も不法就労や不法滞在などの問題に常に頭を悩ませているし、移民先進国のイメージが強いスウェーデンすらも今年、移民暴動が起こっている。韓国の移民政策が若干の安定感を見せていると言われているものの、欧州、米国、アジアどの国も総じて移民問題に苦悩しているのが現状だ。

(4)出生率の回復に成功している国

移民に頼らず脱少子化を図ろうとすると、自力で出生率を上げなければいけない。わが国の出生率は2012年で1.41であり、人口維持に必要といわれている2.07を大きく下回っている状態だ。

一般的に先進国になると出生率が下がっていく中で、実際に出生率を回復させた国はあるのだろうか。

googleのpublic dataで大まかに調べてみると、オランダ、スウェーデン、フランスの3カ国がある。オランダは1.53(1995年)が1.76(2011年)、スウェーデンも1.5(1998年)から1.9(2011年)、フランスも1.73(1993年)から2.03(2011年)まで回復している。

これらの国々はいずれも移民大国であるものの注目に値するのではないか。

(5)移民ではなく、女性に頼る政策を

では、どのようにこれらの国は出生率を回復させたのであろうか。共通するのは女性の育児と仕事の両立を可能にした環境整備にある。

オランダだと育児休業中の100%所得保障や、労働時間に自由度を持たせ女性にとっては育児も仕事も両立させやすい環境を整えた。この点、RIETIレポートの「オランダにおけるワークアンドライフバランス-労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会(権丈英子)」に詳しい。ほかのフランスやスウェーデンも同様に両立が可能となる制度を整備している。

女性の社会進出は出生率を下げるのではという疑問があるが、内閣府は「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」(平成17年)で、1970年や80年代のOECD諸国(先進国)では確かに女性の労働力参加率が上がると出生率が低い傾向にあったが、2000年時点にはむしろ女性の労働力参加率が高いほど出生率が高い傾向にあることを示した。

しかし、日本では女性の就業率が上がったのに出生率は下がっているのはなぜか。それは散々、指摘されているように、働く女性が仕事と育児を両立できる法環境、企業文化、価値観を整えてこなかったからと言える。

この点、安部政権は「経済財政運営と改革の基本方針」の中で「少子化危機突破」の欄を設け、危機を突破するために3本の矢(子育て支援の強化、働き方改革、結婚・出産・妊娠支援)を実行することを明記し、過去の政権より一歩進んだ姿勢で制度を整えようとしているのは評価されるべきだ。

移民に頼らず脱少子化を可能にするには、「ヤマトナデシコ」に頼るしかないからである。

東猴 史紘
元国会議員秘書
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