直下型地震って何?

池田 信夫

小学生のみなさんが今、この瞬間に死ぬことはあるでしょうか? 常識的には「まさか」と思うでしょうが、東日本大震災ではそういうことが起こりました。日本人はいつも、地震のリスクにさらされています。次の図のように、日本列島は世界有数の地震の巣なのです。


世界の地震の分布(気象庁)


地震には、大きくわけて2種類あります。東日本大震災や関東大震災のようなプレート境界型は、大きな地球の表面の板(プレート)が動くので、とても大きな被害が出ますが、数百年に一度しか起こりません。他方、阪神大震災のような直下型は、地震のエネルギーはそれほど大きくないのですが、震源が浅いと被害が大きくなります。

直下型地震は関東地方では平均23年ごとに起こっていますが、1987年の千葉県東方沖地震のあと起こっていないので、2010年以降はいつ起こっても不思議ではありません。これが千葉県沖のように遠いところで起こればいいのですが、1855年の安政江戸地震のように都心で起こると、大きな被害が出ます。

中央防災会議によると、東京で直下型地震が起こった場合、最大で2万3000人が死亡するそうです。61万棟の建物が倒れ、2000ヶ所で火事が起きると想定されています。この地震で関東に住んでいる人が死ぬ確率は1000に1人で、(24時間以内の死亡率で考えても)交通事故の1500倍です。

しかしこういうニュースが出ても、誰も反応しません。それは自分の問題だと思っていないからでしょうが、東日本大震災では津波で1万8000人が亡くなりました。他方、原発事故の直接の健康被害はゼロですが、マスコミは原発事故の話ばかりしています。なぜでしょうか?

それは原発事故のほうがネタになるからです。津波がどんなに悲惨でも、見た目は普通の災害ですが、原発事故は珍しいので絵になります。世界のマスコミも注目するので、大事な問題のような感じがします。放射能は子供に影響が大きいというので、専業主婦のおばさんも関心をもつから、テレビの言葉でいうと数字(視聴率)が取りやすいのです。

でもマスコミ以外の普通のみなさんにとって大事なことは、ネタになるかどうかではなく、自分にとって危険かどうかです。日本で圧倒的に大きなリスクは地震です。原発を止めて毎日100億円以上が浪費されていますが、そのコストを地震対策にかければ多くの人命が救えます。中央防災会議は、死者は1/10に減らせるといっています。「金より命」ではなく、金によって救える命は多いのです。