脱原発を掲げて突如、東京都知事選に名乗りを上げてきた細川護煕・小泉純一郎連合が、具体的な公約案を作成できないため正式出馬を2度も延期するなど、出馬前から既にグタグタな状況を呈し始めているわけだが、なぜこのタイミングで小泉が出てきたのか、脱原発派もそうでない人もよく考えてみたほうがいいだろう。
小泉は、もともと「政局より政策」などと言いながら、なんだかんだでものすごく政局に長けた男である。何の考えもなしにこのような動きに出るはずがない。この一見グダグダな行動の裏にも彼なりの計算がはたらいているのだろう。
まずひとつ明らかなのは、彼が前面に出て自民党執行部と対立する「脱原発」を訴えることによって、息子である小泉進次郎の存在にもスポットライトが当たるということだ。メディアの注目は、否が応でも進次郎の言動に集まることになる。
現に進次郎は、自民党本部が今回の都知事選で舛添要一を支援することに対して筋の通った痛烈な批判を行っている。小泉純一郎はおそらく、自分の地盤を継いだ息子のことを、単なる国会議員の後継者ではなく「将来の首相に」と思っているはずだ。彼の動きは、何十年か後には息子の進次郎が首相候補として挙げられる存在になるよう、そのための布石を打っているように見える(まあそれは全く構わないんですが)。
次に、今回のあまりにもグダグダな状況を見ていると、小泉の行動は「脱原発」候補をもうひとり担ぎあげることによって「脱原発」票を分散させ、脱原発派を敗北に追い込み、自民党の安倍政権の立場を有利にするための巧妙な罠のようにも見えなくもない。現に、細川陣営は未だに具体的な公約案を作成することができず、正式立候補を2度も延期するというグダグダっぷりを発揮している。こんなことをされては、「脱原発」候補に対する信用そのものが損なわれかねない。
最後に、自民党と並んで公明党が支援する舛添要一を落選させることによって、公明党の影響力の低下を狙っている可能性もある。公明党は創価学会という強固な支持基盤を持っているため、その固定票の集票力は絶大である。その固定票の絶対数自体はそこまで大きくないとしても、しばしばキャスティングボートを握る存在として、政界では大きな影響力を持っている。
自民党としてはこの固定票を手放したくはないので、しばしば対立した意見をもつ公明党の主張にも耳を傾けて連立を維持してきた。政教分離の観点から言えば、宗教団体を支持基盤に持つ政党が大きな影響力を保持しているのはあまり好ましくはないのだが、それでも公明党は自民党政権が過度に右傾化・保守化するのを妨げる絶妙なバランサーとしての機能を果たしてきたことは事実だ。
現に、先日の名護市長選において、自民党の支援する辺野古移転推進派の末松文信候補が落選した背景には、公明党が末松候補を支援せず「自主投票」に委ねたという事実がある。もしも公明党がこのような影響力を失えば、自民党政権はフリーハンド状態となるだろう。
小泉純一郎がいずれの目的を持っていたにせよ、細川護煕は体よく利用された神輿にすぎない。かつて小沢一郎が言ったように、「神輿は軽くてパーがいい」のだ(そして首相時代の細川護煕は、明らかに小沢一郎の「軽くてパー」な神輿であった)。
細川が勝とうが負けようが、小泉は一切自分の手を汚すことなくいずれかの目的を達することができるのだ。小泉純一郎は、まことに見事な策士であった。
青木 祐太
東京工業大学
グローバルリーダー教育院博士課程2年