児童養護を考えるマンガ5選~ジョブズとか松本大洋とか

本山 勝寛

ドラマ「明日、ママがいない」で注目をあびている児童養護施設。ドラマに対する賛否は様々であるものの、施設で暮らす子どもたちへの偏見がなくなり、共感が強まること、そして虐待や育児放棄がなくなるように望む気持ちは共通しているのだと思う。だからこそ、これを単なる「騒動」で終わらせるのではなく、多くの人々が児童養護施設や社会的養護の問題を改めて考える機会にすべきではないだろうか。そこで、児童養護施設での生活や、児童虐待からの保護、里親などをテーマとするマンガ作品を紹介したい。


まずは、先日も紹介した「いつか見た青い空」。


児童養護施設で暮らしたことのあるマンガ家りさりさんが、自身の体験をベースに描いた作品。子どもたちの温かい人間関係や、ちょっとしたところに表現される親と暮らせないことの寂しさ、そして人として大切な普遍的なメッセージが込められており、ぜひ読んでみていただきたい作品だ。先日、こちらで紹介したところ、本ブログ経由だけでも100冊以上が購入されている。改めて本作品に注目があび、多くの方に読まれることを期待している。

次に、同じく施設で暮らしたことのあるマンガ家で、ヒット作「ピンポン」の作者でもある松本大洋氏の自身の施設での体験をベースにした作品「Sunny」。

Sunny 第1集 (IKKI COMIX)
松本 大洋
小学館
2011-08-30


松本氏が子どもの頃というと、今から30年以上も前になるので、今の施設とは環境的にはだいぶ異なるだろうが、それぞれ個性をもった子どもたちが独特の世界を創り出しており、思わず引き込まれる。子どもたちへの共感と、なんとなく感じさせられる懐かしさがじわっと染み込んでくる作品だ。現在4巻まで出版されており、こちらもお薦めだ。

上記2作品は施設での生活を実際に経験したマンガ家による作品で、子どもの視点で描かれたものだ。次に、施設に入る理由として特に近年増えている虐待や育児放棄の問題を真正面から取り扱った作品も紹介したい。これらは、社会的養護に関わる病院や保健所、児童相談所や児童養護施設などの支援者・専門家側の視点から描かれており、問題の背景や原因、深刻さ、それらに対処する様々な関係者の努力が描かれており、理解を深めるのによい。もちろん、生半可な気持ちでは読めないが、他人事ではない社会の課題として、多くの人にマンガを通してでも知っておいてもらいたい内容だ。

凍りついた瞳 (YOU漫画文庫)
ささや ななえ
集英社
1996-12-18



もう一つ、里親をテーマにした「ビーマイファミリー」というマンガもある。


不妊治療でも子どもができなかった夫婦が養子縁組で子どもを迎えようとするが、児童相談所のスタッフの勧めで、里親として里子を迎えるストーリー。家に迎えるまでのプロセスが分かりやすく描かれている。養育がうまくいかなかった里親の失敗談にも触れられており、里親入門として読むのによい。

最後にもう一点、児童養護を直接テーマにしたものではないが、養子縁組によって育ったアップルの創始者スティーブ・ジョブズの生涯を知ることも一つの参考になる。製品への完璧さを目指し、しばしば周囲との軋轢を繰り返してきたこと、天才肌で菜食主義やヨガにはまっていたことなどが、産みの親と育ての親が異なる彼の出自と関連づけて捉えられるときがある。いずれにせよ、人類史に残る業績を残したジョブズが特別養子縁組で育ったということは事実である。ジョブズの伝記や映画はそれぞれ話題になったが、伝記をもとにしたマンガも描かれている。


これは、ヒット作「デルマエ・ロマエ」の作者ヤマザキマリ氏が描いたもので秀逸だ。成功した起業家としてのみならず、養子縁組という観点から読んでみると見え方が変わってくるように思う。

児童養護施設や里親、特別養子縁組も、当事者や関係者でない者にとっては実態がなかなか見えにくい。特に日本においてはそうだ。そして、分からないゆえに偏見がうまれ、何か触れてはいけないもののようになってしまう。身近に直接触れる機会がないのであれば、作品を通してでも関心を持ち、理解を深めていきたいものである。児童養護施設を舞台にしたドラマが話題になっているこの機会に、これらの作品を読んでみてはいかがだろう。

こちらもご参考まで。

頭がよくなる! マンガ勉強法 (ソフトバンク文庫)
本山 勝寛
ソフトバンククリエイティブ
2012-10-19


学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。