「ソチで地震を」と祈るテロリスト --- 長谷川 良

アゴラ

ソチ冬季五輪大会(2月7日~23日)は幸先がいい。ウインター・スポーツ国オーストリアの話だ。アルペンスキーの男子滑降でマティアス・マイヤー選手が金メダルを獲得するなど、大会6日目で既に金1、銀4を獲得した。国民もホッとしているところだ。なにせロンドン夏季五輪大会でメダルを一つも取れず、国民も絶望的な日々を過ごしたことがまだ記憶に新しいからだ。夏季五輪の恨みは冬季五輪で晴らす、ではないが、ソチ五輪大会では5個か6個の金メダルを狙っている。決して非現実的ではない。

欧米メディアをもとに、ソチ冬季五輪大会の途中報告をまとめてみた。


巨額の資金(総経費約5兆円)を投入した割に設備、サービスなどで問題があるといった批判の声がある。ソチ五輪開会式セレモニーでは、五輪マークを形作る演出で一つの輪が開かず「四輪」になるトラブルがあったことが大きく報道された。便器が2つあるトイレ、トイレに入ったが出られずに戸を破って出てきた米国選手の話もあった。この種のニュースは結構多いが、信頼性は少々疑わしい。

プーチン大統領は自身の夢でもあった冬季五輪大会が始まったことに満足を表する一方、一部の欧米メディアのシニカルな報道について、「冷戦時代の残滓」と一蹴している。

オーストリア日刊紙プレッセは2月12日、五輪関連施設の建設のためリクルートされたセルビア系、ボスニア系労働者の話を掲載していた。それによると、1日12時間の仕事を強いられ、約束の給料はもらえず、建設が完了すると警察官が突然現れ、不法労働ということで刑務所に送られ、最終的には故郷に強制送還されたというストーリーだ。どうやら、労働者斡旋の背後にはロシアのマフィアが暗躍していたようだという。

一方、ソチ市周辺の住民は五輪施設の建設が始まって以来、清潔な水は止まり、一部の住民は強制移住させられたが、政府からの補償金はまったくないといった話も聞く。

ロシアの同性愛宣伝禁止法に対し、欧米諸国では一斉に批判が飛び出し、ソチ冬季五輪大会ボイコットも辞さないといった圧力をプーチン大統領に行使してきた。オバマ米大統領は五輪開会式参加を拒否した一人だ。

ところで、冬季五輪初めて公式競技となった女子ジャンプで銀メダルを獲得したイラシュコ・シュトルツ選手は同性愛者として有名なオーストリア選手だ。ロシアのメディアがどのように報じているか興味深い。

最後に、テロ対策だ。チェチェン共和国出身の武装勢力リーダー、ドク・ウマロフ(Doku Umarow)が主導するイスラム過激派テロ・グループは昨年7月、ビデオを通じて「戦いは市内の路上まで拡大され、お前たちの財産、生命は脅かされるだろう」とテロ襲撃を予告し、「あらゆる手段を駆使してもソチ五輪を阻止する」と宣言した。

プレッセ紙を読んでいると、イスラム過激派グループがソチ周辺で大地震が起きるように信者たちに祈れと命じたという記事があった。「信仰の祈りは山をも動かす」(「マルコによる福音書」11章23節)と新約聖書には記述されているが、祈りで地震をお願いする、といったことはこれまで聞いたことがない。

プーチン大統領は陸、空、海からソチを完全に包囲する空前の警備体制を敷いている。ソチ冬季五輪大会が無事終了するまで警備体制を緩めてはならない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。