「死の灰」って何?

池田 信夫

きょうは日本の漁船「第五福竜丸」が、太平洋のビキニ環礁で水爆実験の「死の灰」を浴びた事件から60周年です。そのころはよい子のみなさんは影も形もなかったので知らないと思いますが、この事件では第五福竜丸に乗っていた無線長の久保山愛吉さんが「放射能で死んだ」と報じられ、世界的に有名な事件になりました。これをヒントにして、放射能の生み出した怪物「ゴジラ」が生まれました。

「死の灰」というのは、核実験で放射能の高いチリが空気にまじって降ってきたものです。久保山さんがそれを浴びたのは事実ですが、死因が放射能と断定されたわけではありません。その後も放射線医学総合研究所がずっと追跡調査を続けましたが、第五福竜丸の船員のうち、2005年までに死んだ人は12人で、肝ガン6人、肝硬変2人、肝線維症1人、大腸ガン1人、心不全1人、交通事故1人。いずれも放射能とは関係ありません。

久保山さんも肝機能障害で亡くなっており、これは放射能とは関係ありません。解剖の結果でも臓器の放射線量は高くなく、2008年の放医研年報では「久保山さんも輸血が原因で肝炎になった可能性が高い」と結論しています。当時は売血で血を買っており、注射針も使い回していました。船員の多くも、輸血で肝炎に感染したものと考えられています。

1960年代に中国が核実験を繰り返していたころ、日本にも多くの死の灰が降ってきましたが、それによってガンがふえたというデータはありません。広島や長崎では「原爆症」と称してあらゆる病気の原因が放射能と認定されましたが、医学的には慢性の放射線障害はガンしかありません。

アメリカは原爆で戦争に関係のない人を数十万人も殺しましたが、その罪をごまかすために核兵器は「人類の罪」だということにしました。戦争に負けた日本人はアメリカの戦争犯罪を追及できなかったので、「死の灰」やら「原爆症」を悪の象徴にして問題をあいまいにしてきたのです。

実際には「死の灰」で死んだ人は少なく、広島でも長崎でもほとんどの死者は原爆の熱で死んだのです。写真でよく出てくるケロイドも急性のやけどで、放射能とは関係ありません。広島市の平均寿命は日本人の平均より長く、特に女性の寿命は日本一長いのです。

もちろん核兵器は使ってはいけないし、放射能は危険です。しかしそれを恐がって何でもかんでも放射能のせいにすると、福島の人々はいつまでたっても家に帰れません。震災から3年たって「震災関連死」と認定された人は2900人を超えましたが、そのうち福島県が1664人で、これは地震・津波の死者(1603人)を超えました。放射能を過剰に恐がることで、かえって命が失われているのです。