集合知という新聞イノベーション

2014年03月14日 12:00

きのうツイッターを眺めていたら、古巣の新聞社で医師や法曹資格を持つ人を対象にした専門記者の募集告知を出していたらしく、すごい驚いた次第。というのも、私がいた数年前までは、「せっかく社内に数千人の記者がいるのに外部の寄稿者に安易に頼ってはいけない」というコンセプトの下、記者が自分たちで取材して勉強しながら書くべし、という考えが人材マネジメントの基本だったからだ。もっとも、日本の新聞社の社風は純血主義的な価値観があるので今回の専門記者募集は業界としても画期的だ。原発事故のように社会の様々な問題が複雑・高度化し、もはや素人記者のにわか勉強だけでは対応するのが困難なトピックも増えている。社外からも知見を集めるのは時代の趨勢ともいえる。


●記事は内製という常識を破る朝日の企画
最近は、そうした「集合知」による報道について、英紙ガーディアンあたりでは「オープンジャーナリズム」というらしい。ただ、日本の報道機関のなかでも、特に新聞社はテレビ局のように取材の一部を外部の制作会社に委託するようなこともないので、いきなり門戸を開けることが美徳のように言われても、コンテンツは内製するものだという常識が固定化した中でピンとこないのが実状だった。

しかし先日、そんな既成概念に凝り固まった筆者の経験則を大きく揺さぶるイベントがあった。朝日新聞社が主催した「×デジタル⚪︎データジャーナリズム ハッカソン」を取材する機会があり、記者が外部の人たちとコラボレーションする面白さを目の当たりにした。朝日新聞のデジタルコンテンツといえば最近、浅田真央ちゃんの「ラストダンス」がメディア業界で話題になったが、国内の大手メディアで初めてというハッカソンの企画にも、新時代開拓への本気度を感じる。一般公募でデータサイエンティストやエンジニア、プログラマー、デザイナー等の70人以上が参加し、医療やスポーツ、防災等を専門的に取材している記者とタッグを組む。

※アイデアソンでは活発に議論がかわされた
朝日1

2月20日の「アイデアソン」と呼ばれるキックオフ・イベントがあり、そこで記者が問題提起。参加者は興味やスキルに合わせて8つのチームに分かれ、記者たちと共同で報道コンテンツを作り上げる。筆者は「アイデアソン」と、「ハッカソン」最終日(3月2日)に制作現場の様子を見たが、その光景自体が実に刺激的に思えた。というのも、7~10人程度いる各チームに記者は1人か2人。あとは皆、社外のスペシャリストなのだ。

●朝日の社内会議より盛り上がる!?ブレスト
これがどれくらい珍しいかというと、新聞社という業界では編集の中枢は少々 “聖域化”していて、先述したように記者が外部の人と協働で記事を書くことはまず滅多にない。大事件などでチーム取材をすることがあってもデスク以下、全員が記者なのが通常。最近は、毎日新聞がネット選挙のソーシャルメディア分析で社会学者と協働して記事化する動きもあったが、有識者がアドバイサー的にコミットすることがあっても、やはり記者が主導している。

これに対し、朝日新聞のイベントで見たチームは、記者がチーム内で1、2人のマイノリティーだ。しかし、だからこそ、固定観念にとらわれない発信力が生まれる可能性が高い。アイデアソンのブレストでは、「それ面白い!」といった具合にユニークなアイデアがどんどん出され、各チームごとに活発な議論が交わされ、朝日の関係者が思わず「社内会議より盛り上がっている」と苦笑していたほどだった。コンテンツ制作の実作業に入るハッカソンの当日までの時間を惜しみ、Facebook(FB)のコミュニティページを作って、本業の合間を縫って連絡を取り合い、準備を進めるチームもあったようだ。ソーシャルメディアを連絡ツールにしてプロジェクトを進める取り組みは一般のビジネス社会では増えているが、これも新聞記者が通常得られない体験だ。

※優勝した「医療」チームのプレゼン
039A1725浅井チームプレゼン

●3年間の構想が1週間で実現
グランプリを取ったのは「データで透明化する医療」を制作したチーム(詳細はC-NETをご参照)。脳梗塞の治療日数を病院ごとに比較する等、複雑でわかりにくい医療情報を可視化した。チームリーダーを務めた浅井文和・編集委員に、社外の方々とのコラボレーションの成果を尋ねると、「医療データは複雑だけにどう見せればいいのか、3年間考えていたことがこの1週間で実現できた」と興奮気味に語っていたのが印象的だった。

これまでイノベーションという言葉と全く無縁に思われた新聞業界。しかし、今回の取り組みを見るにつけ、ここ何年か感じたことのないワクワク感を覚える企画だったことは確かだ。東洋経済オンラインの佐々木さんが言うようにメディアは予想外に面白いことになるのは間違いない。あーあ、記者辞めるの早まったか(苦笑)
では、そんなところで。ちゃおー(^-^ゞ

※訂正・イベント名称は「データジャーナリズム・ハッカソン」でした。
新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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