【更新】サンクコストって何?

「サンクコスト」(埋没費用)というのは、言葉はむずかしそうですが、意味は取り返しのつかないコストを考えてはいけないという簡単なことです。

みなさんがミュージカルを見に行ったら、つまらなかったとしましょう。お父さんが「S席のチケットで高かったので、もったいないから最後まで見よう」といったら「そんなことしてもお金は返ってこないよ」と注意してあげましょう。チケットを返してもお金は返してくれないので、つまらないミュージカルは最後まで見ないで帰ったほうがいいのです。このチケット代をサンクコストといいます。

コストを計算するとき考えるのは、これからの行動で変えられるキャッシュフローです。もしミュージカルがキャンセルされたら、チケット代は返してくれるので、劇場まで行って返してもらう電車賃よりチケットのほうが高かったら行ったほうがいいでしょう。キャンセルされたチケット代はサンクコストではなく、これからの行動で変えられるキャッシュフローだからです。

東京都の豊洲新市場の問題が混迷を続けている原因も、サンクコストの錯覚です。専門家会議では、都が実施した地下水モニタリング調査の結果、最大で環境基準の79倍のベンゼンが検出され、シアンが数十ヶ所で検出されましたが、この環境基準は飲料水の基準なので、地下水を飲まない豊洲市場では何の問題もありません

小池さんは「サンクコストにならないためにどうすべきか客観的、現実的に考えていくべきだ」といいましたが、これはまちがいです。サンクコストは投資が終わって回収できない費用ですから、「サンクコストにならないためにどうすべきか」という問題はありえない。東京都の豊洲新市場に今までかかった約6000億円の固定費は、豊洲に移転してもしなくても回収できないサンクコストなので、考えてはいけないのです。

考えるべきなのは、これからの行動で変えられるキャッシュフローだけです。豊洲にテナントが入居したら、毎年68億円の収入があり、築地を売ったら4300億円以上の利益が出ます。移転してもしなくても維持費はかかるので、豊洲移転のキャッシュフローは大幅な黒字なのです。減価償却といいうのはサンクコストを毎年にわけて計上しているだけなので、考えてはいけません。

小池知事の考えるべきなのは、豊洲の維持費とその機会費用(代わりの手段にかかる費用)のどっちが大きいかという比較です。常識的に考えると、豊洲移転をやめたら築地を使い続けることになりますが、これは老朽化して不潔で、魚が地面に転がされて環境基準どころか食品衛生法違反です。建築基準法にも違反する建物がたくさんあり、木造家屋が多いので、火事が出ると丸焼けになるリスクが大きい。
 
築地を使い続ける機会費用は豊洲よりはるかに大きいので、不安があっても移転したほうがいいのです。石原元知事や浜渦元副知事を追及して、サンクコストの中身を調べても使ったお金は返ってきません。石原さんが「悪かった」といったら、豊洲移転はやめるんでしょうか? そろそろ都議会も、ワイドショーと一緒になって騒ぐのはやめてほしいものです。

*この記事は2014年4月14日の記事を一部、書き直したものです。