「ブーム」に長短があるのはなぜか --- 岡本 裕明

アゴラ

海外で安いスマホが主戦力となり始めました。サムスンの1~3月の決算を見ても二期連続の減益はスマホが伸びなかったこととされ、同社も廉価版のスマホに力を入れるという経営の軌道修正を行うと発表しました。一方日本でもイオンから発売される2980円のスマホは予約一杯でビックカメラからでる2830円のスマホも相当の善戦が期待されます。

なぜ、人々は安いスマホを目指すのでしょう。


スマホというものが日本で本格的に登場したのは2008年7月にソフトバンクから売り出したiPhoneでした。日本のガラケーは機能的には優れていたもののスマホという新カテゴリーには政府の後押しもあり、新世界が開拓されたがごとく、人々の心をくぎ付けにしました。その上、若い人は友達同士で話題になることも多く、「私もスマホが欲しい」という状態を作り出しました。これが典型的なブームです。

その後、サムスンを始め、各社からバラエティに富んだiPhoneに負けない高機能満載の商品が並び、まさにスマホの技術革新が進む時期に突入します。ところが、ブームというのが長く続かないのは必ず否定的意見、冷めた見方が世の中に少しずつ入り込んでくるからです。スマホの場合も電池の持ち、通話料、月々の料金など様々なマイナス点が見え始め、ガラケーと抱き合わせで持つ人も増えました。まさにこの層の人たちはスマホに完全に満足していない主導的グループとみて良いわけです。

そこにSIMフリーの仕組みを利用した格安スマホが登場すれば満足していないグループもやがて沈静化するという流れかと思います。

この例は実は日本では頻繁に繰り返されるパタンであります。例えば一昔前、ルイヴィトンが大流行したことがあります。「猫も杓子も…」というのはこのことで、「私もヴィトンは一つは欲しい」と思う人があふれ、電車で新しいヴィトンの鞄を持っている人を見かければ女性の目はそれに釘づけでありました。ところがその後、ほかのブランドも善戦し、シャネラーなどという人もいましたが、このブームは割と沈静化するのも早かった気がします。理由はヴィトンが好きな人はずっと好きで昔からファン層は厚かったこと、結局ショールームに行っても手が届かないと諦めた人がむしろ、「アンチヴィトン派」を形成し、独自のファッションのセンスで勝負に出たこともあるでしょう。

今日のポイントは実はブームがどういう風にできてくるのか、ということです。ゼロのマーケットに圧倒的な魅力ある商品を投入した場合、市場は大きく反応し、大きな話題となります。メディアが取り上げ、それを煽ります。市場開拓者は一定の開拓者利益を取りますが、一定期間を置いて必ずライバルが出現し、市場インパクトが大きな商品の場合には乱戦状態が発生します。その時点で価格は下落傾向をたどり、最終的に市場のブームは沈静化します。

ではiPhoneとルイヴィトンは何が違うかといえばiPhoneは新製品としてブランドの歴史的確立が完成してなかったのですが、ルイヴィトンは今更、ブームになる理由がないほど普遍的なものであったこと、そしてルイヴィトンはシャネルに置き換えられない個のテイストがそこに存在します。その点でサムスンがiPhoneと激しい法廷闘争をするほど似通った部分があるというのはこの「個のテイスト」が両者間ではっきりせず、市場シェアを分かち合ってしまったともいえるかもしれません。それが結果として格安スマホの参入を早めてしまったとも言えます。

ブームをなるべく長く独走状態にするには競合相手がいても決して追い付けない独自性が求められると言えるのでしょう。例えば有名ラーメン屋が長く独走を保てるのはその味に勝てるところがないというファン層の根強い人気があるからです。更にそこに、「思い込み」が加わればまさに王者として長年君臨することができるわけです。ルイヴィトンはフランスのブランドの王者としてのマーケティングを含めた巧みさが今のポジションを維持しているとも言えそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。