損切りは損か得か

2014年05月13日 11:30

損切りというのは、保有している株式などの投資対象の価格が下落して、事前に決めた許容損失額の上限に達したときに、それ以上の損失を避ける目的で売却することをいう。この損切り、別に取り立てていうほどもない簡単なことではあるが、深く考えてみると、意外と難しい。


さて、2008年の金融危機において、損切りは有効であっただろうか。恐らくは、損切りが発動する損失上限をかなり低く設定していた場合にだけ、つまり、わずかな損失発生で損切りしてしまった場合にだけ、損切りが役に立ったと思われるのである。なぜなら、2007年の初頭から緩やかに市場が崩れていく危機の初期段階では、十分に流動性もあり、小さな損失を確定することで、資産売却することができたからである。

ところが、2008年の半ば以降は、損切りしようとしたならば、市場の流動性が極端に細くなっている状況での売却強行となり、損失額を極端に大きくしたものと思われる。また、年金基金などの、いわゆる長期投資家は、損切りを全く行わなかったと思われるのだが、大幅な価格下落の影響を、そっくりそのままに受けたはずである。

危機が終わった後から振り返れば、ほとんどの証券価格は危機以前よりも高くなったのだから、損切りをしなかった長期投資家が一番得をしたのである。一番損をしたのは、価格が最も低いところで、損切りをした投資家である。これは、損切りによって確定させた実現損と、単なる評価損との結果的な極端な差である。所詮、下がったものは上がるなら、損切りは愚である。

初期段階で小さな損失を確定した投資家は、その後、どういう投資行動をとったかで、結果は様々であろう。底値に近いところで買い戻して、大きな利益をあげたか、少し下がったところで買い戻して、結局は、底値に近いところで損切りする羽目になったか。

実のところ、損切りというのは、資産運用の理論派が完全に否定しているものである。小さな損失でも損切りしていくと、結局は、小さく確定された損失が累積していく可能性が高いからである。しかも、一般に、損切り後に所詮は買い戻すわけだが、買戻すタイミングについても、売却価格よりも低く買うという理想的行動は難しくて、逆に高く買戻すという残念なことになりやすいのは、多くの方の体験に基づく実感でもあろう。そして何よりも、理論家は、下がったものは上がるという長期的視点を重視し、短期的な価格変動に基づく投資行動を否定するからである。

しかし、世の中、理論家のいうようにはいかない。第一に、金融機関のように、資本制約があれば、損失の許容限界があって、損失は評価損でも実現損でも同じ扱いだから、損切りせざるを得ない場合があるのである。第二に、所詮、下がったものは上がるというなら、資産運用の規律など、全く無用になってしまうのである。

損切りというのは、単なる投資行動ではなくて、多くの場合は、事前に定められた規律である。特に、ヘッジファンドや金融機関の証券運用部門などのプロの投資家は、規律としての損切りを導入している場合が多い。ところが、他方では、同じプロの投資家でも、年金基金や財団などの長期投資家では、損切りを規律化することは稀である。稀であるというよりも、皆無かもしれない。

こうして、損切りを規律化する投資のあり方と、そうしない投資のあり方とは、根本的に異質なものとして、ずっと並存してきたのである。いわゆる投資の理論は、最初から、損切りをしない投資家を対象とした理論である。損切りをしなければならない投資家類型を対象とした投資の理論は、まだ十分に検討されていないのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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