新聞社から脱藩起業は出てくるのか

2014年05月13日 06:00

ここのところ先進的な取り組みをしている既存メディアが面白いイベントをやっておりまして、先月の東洋経済オンラインの発表会に続いて昨日は朝日新聞がMITメディアラボとコラボレーションして開催したシンポジウムに行ってまいりました。


※配布資料より
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◆メディアイノベーションへのトライアル
朝日新聞さんの論調を巡っては色々言われてはいますが、ことメディアイノベーションに向けたトライアルはこの1年半ほど意欲的でありまして、メディア業界の「意識高い」系な皆様の関心を集めております。ご存じない方のために、ざっくり振り返ると、幕末期の幕府に位置付けられがちな業界にあって、社内ベンチャー組織として「メディアラボ」を立ち上げたり、「データジャーナリズム・ハッカソン」で社外の方々とコラボしてデジタルコンテンツを開発したりといった神戸海軍操練所を彷彿とさせる動きを展開。その象徴的作品として、ソチ五輪の折には浅田真央ちゃんの競技人生を取り上げたインフォグラフィック記事「ラストダンス」が注目を集めたりしているわけです。

昨日のイベントは、まさに操練所の取り組みをPRする一環なのでしょう。なんと、はるばるアメリカから、本家本元のMITメディアラボの伊藤穣一所長を目玉ゲストに招待。同じくゲストにNYTのグラフィックエディター、ハフポスト本国のプロダクト部門責任者を招いてプレゼンやら、パネルディスカッションをやりました。このあたり、徳川慶喜がフランス軍式調練のために、ナポレオン三世にお願いしてブリュネらの士官を招聘した故事を彷彿とさせますが、そのうち本当にNYTあたりから“軍事顧問団”を常設で雇う日が来るかもしれません。

※伊藤穣一氏らゲストのパネルディスカッション(筆者撮影)
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公式ページに行くと、当日の模様のユーストが残っておりますし、ざっくりしたやり取りをテキストでパパッと読みたい方は、デジタル編集部の古田記者が担当した公式中継ツイートを含む「まとめサイト」がございます。いや~、便利な時代。ざっくりした速報ベースの記事は、藤代さんがヤフーオーサーで早速書いている。もっとも藤代さんは「『朝日新聞とMITがこれから何をするのか』が 、どうにも分かりませんでした」と辛口論評をしていて、築地の皆様にまた嫌われてしまうんだろうな、と思いますが。

◆「人材流動化」が話題に
それで昨日「おっ」と思った論点の一つが、シンポジウムの終盤で出てきた「人材流動化」の問題です。アメリカでは、スター記者が新興メディアに移籍する動きが相次いでいて、「ゴールドラッシュ」と見る向きも出ている。このあたり、先月の東洋経済オンラインでも話題になっていて、佐々木編集長がメディアのスタートアップが雨後の竹の子のごとく続出している様子を伝えておりました。朝日新聞さんの面白いところは先日もデジタル版で、古田記者が佐々木さんにインタビューした記事も掲載していて、日本でも「記者独立の時代、5年で来る」と社内外を煽り立てているわけです。なんか若い記者たちが自分自身に言い聞かせているような複雑な心情が覗けるようではあるんですがね。

※東洋経済オンラインの発表会資料と特製キットカット。あ、食わないと。
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たしかにジャーナリズムのデジタル化が進めば、既に朝日さんのハッカソンで証明されたように、エンジニアやデザイナー等の異業種プレイヤーとの協業だとか、新聞社でそうしたスペシャリストを中途採用することが増えるのは自然の流れでしょう。しかし堀潤さん的に言うと、ニュースルームで安穏としていた記者や編集者が果たして脱藩するのかどうか。アメリカと違うのは、構造不況業種といっても日本の場合、再販制の存在による「規制プレミアム」でかさ上げされた「40歳1,000万円」クラスの高給で保護されているのがボトルネックになっているわけです。

何よりも新聞社で働いていると、自分の書いた記事で売れ行きが変動するようなこともないので市場感覚が身に着かない。独立となると、営業とかマーケティングとかの素養が求められるわけで、それが無いことが分かっているから悶々としていても脱藩しない、ていうか出来ない。たまに思い切って脱藩者もいるんですが、佐々木俊尚氏のような成功者は一握りで、風俗ライターの世界に不本意にシフトしたり、生活保護寸前みたいな状況の方も少なくないわけです。かくいう私もクライアントの皆様のおかげで食べていられますが、辞めてからの逸失利益を試算すると、下町あたりで中古マンションは買えたな~。そろそろ回収したいんですがね。はー(嘆息)

◆投資の動きが出てくるかどうか
とはいえ、5年くらい前にMyNewsJapanのドンキホーテ編集長が脱藩を煽り立て「毎日・産経早く潰れろ」的な罵倒ツイートをしていた頃に比べると、天下の大新聞社のシンポジウムで、なんちゃってレベルでも“脱藩”が取りざたされるようになっただけでも時代が変わってきたのかなと、それはそれで小さな感慨もございます。ダイヤモンド社を脱藩した加藤貞顕さんの「cakes」のような動きが増えてくるかどうか。

ま、新聞記者が出版社の方々よりビジネス感覚が拙いのはバックボーン的にやむを得ない。それでもマネタイズできるコンテンツを作る力さえあれば、受け皿を用意してあげれば何とかなるかもです。そういう意味では、VCがメディアのスタートアップに投資する流れが出来るかどうかですかね。新興メディアに投資する動きが出てくると局面も変わってくるのかな。エンジェルさん、僕を助けてください。ではでは。

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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