福島でがんは増えたの?

2014年05月18日 13:24

「美味しんぼ」の騒動で、いまだに「どちらの意見もある」とか「真相はわからない」という人がいるようですが、これはまちがいです。数マイクロシーベルト程度の放射線で鼻血が出ることは医学的にありえない。こういう話はすべて原発事故で増えたという因果関係を証明しないと意味がないのです。

鼻血は普通の人にも、一定の確率で起こります。よい子のみなさんも鼻血を出したことがあるでしょう。そのとき、たまたま電車にのっていたら「電車が鼻血の原因だ」ということになるでしょうか。なりませんね。「美味しんぼ」はその程度の話をしているだけで、相手にする必要はありません。

もうちょっと厄介なのは、「福島県で子供の甲状腺がんが増えた」といった話です。これが本当なら、意味があります。放射線でがんが増えることは医学的にありうるからです。しかしこういうがんが発症するのは、平均25年後です。子供の甲状腺がんはそれより早く発症しますが、事故から3年で増えることはありえない。つまりいま発症しているがんは原発事故とは関係ないのです

それでも統計的にみて増えているのなら意味がありますが、福島県の調査では、37万人の未成年の調査で50人が「がん」と診断され、39人が「がんの疑い」と診断されたそうです。これで騒いでいる人がいますが、甲状腺がんも世の中で普通に起こる病気です。甲状腺がんになる確率は「発症した人の数÷全体の数」で考えます。この場合は「疑い」の人まで入れても89人だから、確率は

 89人÷37万人=0.00024

つまり10万人に24人です。「わずかでも起こってるじゃないか」という人がいるかもしれませんが、こういう場合は統計的に有意に増えたかどうかが問題です。これはむずかしいことばですが、要するに誤差では説明できないぐらいはっきりと差が出るかどうかが大事なのです。

このためには福島県以外の場所で、どれぐらい甲状腺がんが起こるかという数字と比べる必要があります。環境省の調べによると、県外では4400人に1人、甲状腺がんが見つかったそうです。これは

 1人÷4400人=0.00023

つまり10万人に23人です。福島のほうが1人多いといえば多いですが、89人には「疑い」の人も含まれているので、たぶん普通より少ないと考えたほうがいいでしょう。どっちにしても、これは誤差の範囲で、統計的に有意な差ではありません。全国平均とほぼ同じ確率で発症したと考えたほうがいいでしょう。

この他にも「福島で奇形児が生まれた」とか騒ぐ人がいますが、奇形児も一定の確率で生まれます。福島で起こったからといって原発と結びつける理由はありません。そういう不安をあおることは福島県の人に迷惑になるので、よい子はやめましょう。

おとな向けの補足:歴史上、原発事故でがんが増えたことが確認されたのはチェルノブイリ事故だけです。国連科学委員会によると、放射性ヨウ素の入った牛乳を飲み続けた子供6000人ががんになり、10人が死亡しました(これが唯一の晩発性障害)。これは福島とは無関係で、発症は5年後以降です。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑