エネルギー問題と「地球の倫理」

2014年05月20日 11:25

JBpressの記事の補足。「原発ゼロ」にすると、化石燃料を増やすしかない。特に経済性から考えると、石炭火力が増えるだろう。それは電力会社にとっては合理的な選択だ。彼らも新たに原発を立地しようとは思っていない。「脱原発」なんてくだらない話で、このまま放置すれば、あと40年ぐらいで日本は「原発ゼロ」になる。問題は、それでいいのかということだ。いくつかのケースにわけて考えよう。

  • 環境リスクを考えないで短期の国内コストだけを考えると、石炭火力がベストだ。設備投資は大きいが、燃料費はLNGの半分以下だ。原子力のような政治的リスクもない。

  • 気候変動のコストが炭素税として内部化されると、石炭の優位性はわからない。これは税率によるが、5000円/t以上なら原子力がまさる。
  • 向こう100年の世界全体のコストを考えると、石炭は最悪の選択だ。中国だけで、石炭による大気汚染で毎年100万人以上が死亡し、炭鉱事故で8万人が死んでいるともいわれる。気候変動は、取り返しのつかない結果をもたらすかもしれない。

もちろん原子力にもリスクはあるが、どう比較しても石炭火力の健康リスクはそれよりはるかに大きい。石炭火力から出る放射性物質だけをとっても原発より多く、水銀や砒素も日本だけで年間数千人分の致死量が出る。使用ずみ核燃料は地下に貯蔵されるが、こういう有害物質は大気中に排出されている。

これは事実の問題ではなく、どの範囲でコストを最小化するかという倫理の問題である。日本人の短期的利益を考えれば石炭火力がベストだが、長期的な地球環境を考えれば、原子力のコストのほうがはるかに低い。しかし一般大衆は地球のことなんか考えてないし、考える義理もない。だから何もしないで「原発ゼロ」にすることが政治的には賢明だ。

これは財政や社会保障の問題と似ていて、将来世代の代表者がいないという民主政治の欠陥による。このバイアスを補正するのが官僚機構の役割だが、彼らもマスコミの作り出したマス・ヒステリーに呪縛されて、身動きがとれない。だからEconomist誌のように「将来世代のことは将来世代が考えればいい」と割り切るのも一つの考え方だ。

気候変動のリスクは不確実だ。スターン報告のいうように、そのコストが2100年に世界のGDPの20%になるとすると、現在のGDPの1%以上を気候変動対策に使う必要があるが、この推定には疑問があり、何も起こらないかもしれない。起こるまで様子を見て、われわれの子孫が考えるというのも一つの選択だろう。彼らは豊かになるので、技術が進歩すれば環境問題も解決するかもしれない(しないかもしれないが)。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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