新聞がネットに対抗するには --- 中村 政雄

2014年06月22日 14:09

「3.11以後、われわれ日本人の中では、異質なるモノもやわらかく受け止める心と体の能力が目に見えて低下したのではないかという印象をぬぐうことができない。未成熟ゆえにか、ネット社会はあらゆる場面で敵か味方かを瞬時に識別して、いや決めつけて、熱狂的に歓声を上げるか、攻撃を加える。微細な差異が極限にまで押し広げられて『敵』がねつ造される。『祭り』が始まる。幾度となく、ささやかな規模ではあれ、そんな見えない暴力の奔流に引きずり込まれることになった。なすすべはない」

学習院大学文学部教授、一般社団法人「ふくしま会議」代表理事の赤坂憲雄さんは近著『震災考』(藤原書店)の前書きで嘆いておられた。


東日本大震災に対する発言で、ネット社会から激しい反応を受けたのだろう。ネットに比べると新聞はそこまで興奮性は高くなく、落ち着いて分析し論評すると思いたい。スピードでネットにかなわない分、正確さと広い視野と洞察力を示してくれると期待する。

安倍政権は4月11日、エネルギー基本計画を閣議決定した。翌朝の新聞のコメントは、まるで原発論争のようだった。いかに原発が日本にとって重要なエネルギーであるかを示したといえる。

各紙の社説を見ると、これまで脱原発記事を書きまくってきた朝日や毎日新聞も、なぜか原発に反対とは書いていない。反対する根拠を明示できる自信がないのだろう。しかし社会面や解説では「福島事故を忘れたのか」といった感情的な記事を並べ、紙面全体としては反対ムードを盛り上げた。理屈では認め、感情論で反対する。

よくある手法だ。ボリュームでネットに対抗しようというのか。

4月12日付け朝日新聞の社説は「原発依存度を減らす以上、その新増設より同じ機能をもつ地熱や水力、高効率の石炭火力などの開発を優先させるのが筋だ」と書いた。

社説だからどんな主張をするのも勝手だが、地熱や水力に原子力に代わるだけのポテンシャルがあるのか大いに疑問だ。大規模水力を建設できる余地は日本にはほとんど残っていない。地熱は思いのほか出力が小さい。石炭火力でCO2をこれ以上増やすことが、地球環境上許されることか。こうした疑問への説明がないままの脱原発論は意味がない。

原発再稼働への期待に冷水をかけたいのか、4月12日付毎日新聞朝刊は、福島原発事故の賠償や廃炉で原発の「割安」が崩れたと書き、民主党政権時の「コスト等検証委員会」委員だった大島堅一立命館大学教授の「福島原発の収束が見えない中、『原発は安い電源』とは決して言えない」との談話を載せた。同じ日の朝日新聞朝刊にも大島教授の同様な談話がある。

「安くない」なら、なぜ電力各社は再稼働を急ぎ、政府もそれを望んでいるのか。話が合わない。

東京電力は事故で多大の負債を抱え込んだが、事故を起こしていないほかの電力会社が原発の稼働を止めたら経営状態が悪くなったことをどう説明するのか。原発の代わりに火力発電を増やしたら燃料代で大赤字になった。このまま原発を止めたままにしておくと、電力代金は下がるというのか、大学教授も新聞も、分かりやすく説明してくれなければ困る。

北海道電力が初めて原発を建設したとき反対派は札幌市内で「原発ができると電力代は上がる」と叫んでいた。原発が稼働したら40%安くなった。これは事実だ。

新聞がネットに対抗するには情報の質が大切だ。

中村 政雄
ジャーナリスト

エネルギーフォーラム6月号」の記事を転載します。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいた関係者の皆様には感謝を申し上げます。

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