原子力の本当の争点

2014年06月29日 12:46

ロシアで高速炉の実験が成功したというニュースをめぐって、ツイッターでちょっと議論があったので補足しておく。原子力のリスクには、大きくわけて3つある:

  • 暴走事故

  • 核廃棄物
  • 核拡散


このうち暴走事故については、技術的に解決できる。高速炉は、軽水炉のような炉心溶融が原理的に起こりえない。もともと軽水炉は原子力の本命ではなく、技術的には高速炉のほうが効率がいいことは50年前からわかっていた。高速炉は核兵器の材料を「増殖」できる魅力があり、ロシアが開発した動機もそれだった。

しかし「増殖」の効率は悪く、スーパーフェニックスでも倍増するのに100年かかる。また非在来型ウランも700年から9000年分あるので、核燃料サイクルは意味がない(ロシアは今では核弾頭が余っているので、増殖する必要はない)。また、もんじゅの事故のように冷却材であるナトリウムの扱いがむずかしく、経済的に問題がある。

核廃棄物の問題は、GEPRにも書いたように錯覚である。プルトニウムの経口毒性は水銀や砒素より低いので、これだけに莫大なコストをかけて封じ込めても社会は安全にならない。技術的には海洋投棄がもっとも安全なので、これは政治の問題である。

本当の争点は核拡散である。ウラン=プルトニウム系には原理的に核拡散のリスクが残る。特に新興国に輸出するのは危ない――とある会合でいったら、原子力関係の政府高官に「新興国に核兵器の技術はない」と反論されたが、これこそ安全神話だ。インドやパキスタンに開発できた核兵器をイランや北朝鮮が開発できない保証はどこにもない。

日本で多くの人が高速炉にこだわる理由は、核燃料サイクルをここまで構築してしまったことにあると思う。これはいま思えば大失敗で、70年代に撤退したアメリカは正解だった。海軍の原潜技術者だったカーター大統領は、核兵器の材料を増殖するリスクを理解していたのだ。

今までに核燃料サイクルに投じた10兆円はサンクコストなので、考えるべきなのは今後のキャッシュフローだけだ。電力会社や経産省は「直接処分に切り替えると使用ずみ核燃料が資産計上できなくなる」というが、これこそサンクコストの錯覚である。高速増殖炉は経済的には絶望なので、核燃料サイクルの用途はMOXでプルトニウムを消費することぐらいだ。

プルトニウムを日本国内にとどめることができれば核拡散のリスクはほとんどないが、日本が核武装する可能性もある。それに備えて核燃料サイクルが必要だという意見もあるが、いま日本が保有する44トンのプルトニウムだけで、5000発以上の核弾頭がつくれるので、増殖の必要はない。

将来、日本が経済的に困窮して石原慎太郎氏のような政治家が首相になったら、プルトニウムを新興国に輸出することも考えられる。私は日本の技術は信用しているが、政治家は信用していないので、核兵器の材料をこれ以上増やすことには賛成できない。すでに全人類を50回ぐらい殺せるプルトニウムがあるのだから51回に増やしても大した違いはないという考え方もあるが、核兵器の管理には膨大なコストがかかるので将来世代の負担が増える。

核拡散のリスクのないトリウム型原子炉を推奨する声も50年前からあるが、実用化にはほど遠い。トリウム系は「技術的に不可能だ」という批判もあるが、溶融塩炉は技術的に実現できると古川和男氏などの研究者は言っており、日本のメーカーも研究開発を続けている。

幸か不幸か、日本ではあと10年ぐらい原発の新規立地は不可能なので、核燃料サイクルへの新規投資は凍結し、ウラン=プルトニウム系に限定しないで次世代技術の研究開発を進め、100年後のエネルギー問題をゆっくり考えてはどうだろうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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