果たして「シャフク」の経営は健全化したのか --- 楢原 多計志

2014年07月16日 10:31

「地域ニーズに応えていない」「財務状態が不透明だ」「ガバナンスがなっていない」「使途不明のカネを溜め込んでいる」「競争原理が働いていない」……。

ここ数年、社会福祉法人への風当たりが強くなっている。厚生労働省の検討会がまとめた最終報告書は「存在意義そのものが認められなくなることを真摯に受け止める必要がある」とまで指摘した。社福(シャフク)の運営はそんなに酷いのか。


◆追い風

発端は、特別養護老人ホームが抱える多額な「内部留保」だった。2年半前、厚生労働省が与党だった民主党に求めに応じて提出したデータ資料に内部留保とみられる金額が「特養1施設当たり(内部留保)約3兆円」と明記されていた。マスコミがこぞって「特養はカネを溜め込み過ぎ」と報じたことから、特養への批判(誤解、曲解も含め)が噴き出した。

最も先鋭的な批判を繰り返したのが、政府の規制改革会議だ。経済界出身の委員を中心に厚労省に「内部留保を資金とする社会貢献事業」「財務諸表の期限付き開示」「役員報酬の開示」「第三者評価の実施」の義務付けなどを強く要求した。

同会議が強硬姿勢を貫いた背景には、「税制優遇や補助金交付の恩恵を受けているのに社会貢献事業をやっていない」との従来の批判に加え、今回、特養の内部留保問題が強い追い風になったことは否めない。「介護保険でカネを溜め込んでいる」というのが論拠だ。

◆3点セット

火消しに回った厚労省は、有識者を集め、社福における内部留保の定義付けを急ぐ一方、検討会を立ち上げてシャフクに財務、運営、組織の見直しを迫った結果、この6月、最終報告書をまとめ上げた。

内部留保の定義については、従来の「余剰金」という概念を変えず、今後、予想される施設の新改築、大規模改修、新規事業に必要に資金が多く含まれていると説明したが、その中に使途が決まっていない資金が存在することをあえて認めた。

検討会の最終報告書(表題「社会福祉法人制度の見直しについて」)には、先の社会保障制度改革国民会議の報告書や規制改革会議の意見をベースに、「地域における公益活動の推進」「法人組織の規模拡大・協働化」「法人運営の透明性の確保」「法人の監督の見直し」の5つを柱にして論点を盛り込んだ。

その後、政府は、「新成長戦略」「骨太の方針」「規制改革実施計画」のいわゆる“アベノミクス第3の矢・3点セット”を閣議決定した。厚労省は3点セットと整合性を図りつつ、社会福祉法人の関連法改正案などを次の通常国会に提出する方針だ。

◆粘り勝ち

シャフクは、どうなるのか。検討会の最終報告書にはいくつかの論点や提案が示されている。

最も明確なのが「財務諸表の開示と公開」だ。丼勘定を改め、統一様式の財務諸表を作成、ホームページでの開示を義務付ける。異論もある。「今の財務諸表ではシャフクの財務状況をしっかり把握できない」という意見だ。例えば、内部留保の状況が一目で理解できるような書式が必要だという。形だけの公開では意味がない。

法人の課題では、役員報酬をどこまで開示するのか、個人情報保護の観点から調整が必要になる。また理事会の馴れ合いを防ぐため、チェック機能を果たす評議員会の設置を義務付けるかどうか検討する。地域の特殊性が必要だ。
合併による規模拡大には消極的な意見が多く、1つの非営利法人が複数の法人を一緒に運営できるようにする方向で検討することになった。これも地域の特殊性などが壁になる可能性がある。

そして住民が最も関心を寄せると思われるのが、シャフクに「地域における公益的な活動」を義務付けることだ。「公益的な活動」とは何か。厚労省は「社会保障制度や福祉制度の谷間に陥った住民を支援する新しいセーフィーネットで、社会福祉法人の今日的な課題として取り組んでほしい」と説明。例示として、地域交流のための場所提供、成人後見人引き受け、生活困窮者への介護保険利用料軽減などを挙げている。

ところで、規制改革会議が要求している「社会貢献事業」と厚労省の言う「公益的な活動」の違いは何か。社会貢献事業は義務的に取り組まなければならず、費用は内部留保で賄う。これに対し、公益的な活動はシャフクの自主性を尊重する意味合いあり、余剰金(内部留保)のほか、寄付金などの独自財源を充てる━という意見がある。

結果的に、規制改革会議は、内部留保という追い風をもらったにもかかわらず、実質的な成果は財務状況の公開義務ぐらい。株式会社の特養参入という最大要求を自ら見送らざるを得なかった。厚労省の粘り勝ち。一時、危機感を露わにしていたシャフクは、とりあえず安堵?

楢原 多計志
共同通信客員論説委員


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年7月15日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。

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