日本の貿易赤字がとまりません。原因はいろいろあると思います。円安で輸入額が膨れ上がった、とくに原発の停止で原油やLNGの輸入が増加したこともあるのでしょうが、それよりも深刻なのは円安効果で輸出が伸びると言われていたのが、現実は伸びないどころか、むしろ減少してきたことでしょう。円安になれば輸出が増えるというアベノミクスの大誤算です。
日本の貿易赤字、過去最大 原発再稼働で緩和の見込みも、輸出回復には懸念 海外紙指摘 | ニュースフィア
貿易額の推移を見ると、輸出競争力の改善が輸出数量の増加につながるまでのタイムラグが半年程度とよくいわれますが、今年に入って3月以降は輸出額が減少、と頭打ちに陥ってしまっています。
しかし、そもそも円安になれば輸出競争力が増すというのは現場感覚で言えば、なにか違和感がありました。昨年4月にはそれを指摘させていただきました。
円安で輸出が伸びるという単純なものではない
円安になっても、輸出が伸びないのは、ふたつの理由が考えられます。ひとつは多くの人が指摘されていることですが、日本の企業の海外生産が進み、いくら日本ブランドでも輸出にはならないことです。そちらは現地法人の利益となり、そこから得られる収入が、日本の経常収支としてカウントされます。
それならいいのですが、それよりも深刻なのは、競争力を失った製品はいくら安くなっても売れない、日本の産業競争力が低下してきているために輸出がふるわなくなってきたのではないかという疑いが濃厚なことです。
どうも輸出競争力が低下してしまったのではないかという疑いが濃厚なのです。ちなみに世界の輸出総額に占める日本のシェアは低下してきています。こちらのコラムによると、日本の世界の輸出総額に占めるシェアは、2012年の4.5%から、2013年7~9月期までで3.9%と大幅に低下してきているようです。
コラム:日本の輸出苦戦、真犯人は欧州=嶋津洋樹氏 | Reuters
こちらのコラムでは、中国や韓国の台頭というよりは、欧州各国の域内貿易が伸びているなかで、日本は2013年に欧州向けで、輸出金額が前年比プラス0.7%、数量で同マイナス6.%と苦戦を強いられているために、欧州勢こそが日本の輸出を圧迫する「真犯人」の可能性が高いとされています。しかしそれも輸出競争力が低下した結果でしょう。
ちなみに通商白書では、日本の世界の輸出に占めるシェアが低下してきていること、さらにかつては稼ぎ頭だった電気機器が、2000年以降に輸出力が大きく低下してしまったがことが指摘されています。
過去最大の貿易赤字と我が国企業の競争力:通商白書2013年版(METI/経済産業省)
気になるのは、成長分野である情報通信分野でも日本ブランドがシェアを落としてきていることです。海外のベンダーの買収などでサービス分野は伸びていますが、この成長を取り込めていないという現実があり、それどころか液晶テレビにつづいて、スマートフォンも惨めに敗北しています。
しかも、いくら最終製品でシェアを落としても、日本はデバイスには強いとされていますが、全体としてはデバイスでも日本ブランドはシェアが低下してきています。
■ICTの分野別シェア推移
国際競争力の低下が進む中で、海外生産比率が高まればダブルパンチで当然輸出は減少してしまいます。
平成25年版ICT国際競争力指標(PDF)
株価が上昇しつづければ、その心理効果で景況感もよくなり、日本の産業の活性化にもつながってくるのかもしれませんが、基礎体力を向上させなければ、将来にむけた競争力は高まりません。
きっと、日本は安倍内閣が思っている以上に、経済にメスをいれなければならないのでしょう。成人病に悩む日本に、いくらカンフル剤を打っても、その効果が持続するのは限定的で、しかも短期的です。
こういった産業競争力の低下や経済の停滞が起こった真犯人は、高度成長期レジームではないでしょうか。日本が脱却すべきは「戦後レジーム」ではなく、「高度成長期の産業レジーム」ではないか、国産の力の再定義や再構築ではないかと感じてなりません。
いろいろ課題は多いのでしょうが、日本の力でもっとも重要なのは、価値を生み出す力です。ぜひ、その価値を生み出せる環境整備、民間の知恵や努力、また新たな分野へのチャレンジを引きだすことに政治はすべての力を集中していただきたいものです。