長崎県の教育は抜本改革を

前田 陽次郎

定期的にというか、長崎県では子供が悲惨な事件を起こす。

たまたまなのだろうか。それとも、何か長崎県の教育に問題があるのだろうか。

私は長崎県の公教育を小中高と受けてきた。その経験上、根本的に問題があると思うのだが、多分、長崎県の教育関係者は、私の言うことは数々の悲惨な事件とは全く関係がなく、私の指摘する点を少しでも改善しようとする方向には、動かないだろう。


具体的に何が問題なのか。それは、生徒の多様性を一切認めず、学校が認める1つの方向性を嫌でも目指さないといけないことなのだ。

1つの例をあげると、長崎県の高校は公立市立全ての全日制高校に制服がある。私服で通える高校は、定時制単位制の高校だけである。

これ位のことであれば、他にも同じような県はあるだろう。だからこのことが問題であると強く言うつもりはないが、とりあえず1つの象徴ではある。「制服」という、1つの型に生徒をはめ込んでいるのだ。

一番問題なのは、学校の運営自体が勉強第一で、他の可能性を認めないこと。勉強さえやらせておけば、生徒は非行に走らない、という考え方。

長崎県の高校は、公立私立を問わず、とにかく補修授業が多い。通常時には、正規の授業の前に早朝補修、そして放課後に補修。夏休み冬休みなどの長期休暇にも補修。進学校だと、正味の夏休みは1週間程度しかないのではないだろうか。これがほぼ強制。余程の理由がないと、受けないとは言えない。誰かが補習授業を受けないと、クラスの和を乱すから、どんなに無駄だと思っても、受けさせられる。

そうなると、当然部活が影響を受ける。インターハイに出場が決まって、スポーツ推薦で大学を目指すような生徒でも、補修授業を受けないといけない、などという話は、長崎県においては珍しいことではない。

進学校ならさておき、職業高校でまで補修授業(全員参加)をやっているのは、どうなんだろうか。ちなみに、長崎の主要地方紙である長崎新聞を読む限り、職業高校で補習授業をやるのは「いいことだ」というニュアンスの書き方しか見たことがない。

ネットを見ていたら、今回事件を起こした少女が通っていた高校は、偏差値60程度で、そこで彼女が東大を目指すとか言っていたのはレベル的におかしい、などという書き込みがあった。しかし、地方は高校の数が少ない。佐世保に住んでいて東大を目指すなら、この高校が第一選択肢になる。

私も似たような感じで長崎市内の県立高校に通っていた。当然、生徒間の学力差は大きい。東大に受かるのは、毎年数人。それでも、毎年入る。そんなレベルだ。言うまでもなく、東大に入る人間は、自分で勉強している。学校の授業なんて、レベルが低くて話にならない。

そういうレベルの低い授業でも、きちんと受けないと和を乱すと言って怒られる。正規の授業なら仕方ないと思えるが、それに加えて、早朝、放課後の補修授業も、無理矢理受けさせられる。受けなかったら、大問題になる(実際、私が受けなかったら大問題になった)。

夏休みには勉強合宿というものもある。私の時代には、学校に冷房がなかったから、雲仙という標高の高い山に篭っていた。これも、ほぼ強制参加。(私から見ると)レベルの低い生徒と、レベルの低い先生と(こちらの方が問題)、どうして一週間も山に缶詰めにならないといけないのか。時間の無駄以外の何物でもない。私は高3の夏休みには免除して貰ったが、参加しなかったのは一学年500人のうち、10人程度だと思う。これに参加しないと言い出すのも勇気がいる。何故参加しないのかと先生に呼び出されて説教される。親にも迷惑をかける。不参加となると、先生は必ず親を説得するのだ。多分、不参加者が多いと、担任は上司から怒られるのだろう。普通はそれが面倒だから、嫌々ながらも参加する。

私は親にもしっかり事情を話して、理解してもらった。ちなみに「学校の先生のレベルが低い」ということは、地方においては、それなりの学歴のある親でないと理解してもらえない。それなりの学歴のある人は、地方に戻って来ないので、地方の親の学歴は、相対的に低いのが現状だ。少なくとも母親が東大出だ、などという話は、今回初めて聞いた。

長崎県の教育に関して具体的な話というのは、この程度しか思い浮かばない。だからどうした、という感じにしか受け取らない人が多数であろう。でも、悲惨な事件が何度も起こるのだから、やっぱりそこは学校教育に問題があると、少しは長崎県の教育関係者に感じてもらいたい。凶悪事件はさておき、新学期始めの時期には、毎年のように、学校に行きたくないといって自殺する生徒が出たと報道されているのだから。また、少なくとも事件のあった高校は、この夏休み位は補習授業を全て中止し(勉強合宿は中止になったようだが)、生徒も先生もゆっくり考える時間を作ってもらいたいものだ。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師