なぜか強気のプーチン大統領 --- 岡本 裕明

アゴラ

プーチン大統領の反撃が開始されました。ウクライナ問題に端を発した今回の欧米とロシアの「制裁争い」は先手の欧米に対してロシアはまずは農産物、畜産、食品の一年間の輸入禁止を決定しました。対象国は米国、EU諸国、カナダ、豪州、ノルウェー、オーストラリアで日本は除外されています。

この制裁による民間企業の損失は莫大なものになると思われ、例えばカナダならば対ロシア貿易は年間550億円規模ですが、うちその主たる部分を占める豚肉業界が大きな影響を受けるとされています。ましてや地政学的に近いEU諸国などはもろに影響を受けるとされ、オランダは農業園芸協会が「深刻な打撃を受ける」とし、ポーランドからは農林大臣が「代替輸出先を見つけることは困難」と声明を出しています。


プーチン大統領は囲い込み作戦も開始しベラルーシ、カザフスタンとも協力体制を取ることとしています。

さらに、畜産、農産物の輸入禁止は第一弾で第二弾として航空機のロシア上空通過を禁止する可能性が出ています。これは例えば日本に乗り入れている欧州線に甚大な影響が出てしまいます。それこそ、昔のようにアラスカのアンカレッジ上空経由といったルートになるのでしょうか?

なぜ、このような事態になったのか、一歩下がってみるとプーチン大統領は一貫しており、「親ロ派との紛争に関してウクライナ政権への責任追及」であります。ただ、煽っているのもロシア側でウクライナとの国境付近に2万人の兵士を集めているとされています。その目的が「取り残されたロシア系住民の救助」なのか「ウクライナや西側国家への見せつけ」なのかはたまた、もう一歩踏み込んだ目的の下準備なのか、読み切れていません。ただいえることはプーチン大統領は西側国家の制裁に対して「堪えていない」ということであります。

プーチン大統領は半年、1年ぐらい前には「世界にあるべきリーダーの一人」ともてはやされた時期もありました。人の評価の表裏一体というのはこういうことなのでしょうが、我々が耳にする「アメリカ発」の情報だけで判断するとどうしても偏りが出てきます。真実がどこにあるのか、ロシアの声、欧州の声も併せて検討する必要はありそうです。

個人的にはこの状況を作ったのはアメリカにあると考えています。そして実に中途半端な状態に放置してしまっています。勿論、ハマスとイスラエルの火消しにも躍起でしたでしょうし、あまり得意でない「イラク」問題にもある程度は首を突っ込まねばなりませんでした。おまけにウクライナ問題はアメリカ本国から遥か遠く、貿易を含めた経済関係は希薄でありますからお茶を濁すことはいくらでもできたわけです。

ではロシアとの対話のキーパーソンは誰であるかといえば今のところ、ドイツのメルケル首相にあるように見えます。昨日も電話での会談が行われているようですが、それはドイツとロシアが極めて密接な経済関係を維持する中で利害関係を含めたより現実的な話ができるからでしょう。想像ですが、オバマ大統領とは理想論が宙を駆け巡り、総論と各論がかけ離れているように感じます。

このままいけばロシアは経済のブロック化を進める公算があります。それは中国を含めたBRICS(Sは南アフリカ)であります。以前、このブログで指摘させていただいたのですが、世界経済がブロック化する公算があり、それは昔のブロック化とは違った意味合いが出てきているとしました。欧州のEU, 北米のNAFTA, アジア地区は成立すればTPPがありますが、それ以外にも東南アジア諸国連合などがあり、一定の地域内連携ないし、それを模索しています。その世界の中でロシアが主体となるブロックがあっても確かにおかしくはないのです。

どうもプーチン大統領は中国のバックアップもあり、経済的支援でかなり強気になってきているように見受けられます。これは習近平体制が着実にその地盤固めをしており、プーチンー習近平ラインという大国の独裁者連携を構想に描いているように見えるのです。通常、ロシアにおいて畜産、農産物の欧米からの輸入禁止はロシア国民にかなり負担と疲弊感をもたらすはずです。それでも強行したのは中国からの支援があるとみて良いでしょう。私もずいぶん前、冬のソ連や東欧にいたことがありますが、食べるものが少なくて往生しました。ホテルのレストランでメニューを指さしても半分以上が「ニエット(No)」でした(戒厳令下のポーランドにいた時は滞在中、イモしか食べることができませんでした。あれは本当に辛かったです!)。

プーチンー習近平ラインの強さは情報統制により国民のボイスがある程度コントロールされていることがあります。言い換えれば西側諸国より国としての意思の統一性や決定権、決定スピードなどが圧倒的に早く先手を打ちやすいことが挙げられます。勿論、このまま経済制裁をし続ければロシアの疲弊感も強まるとは思いますがそれが世界経済と平和にどう影響するのか、このあたりは非常に繊細な問題になってくるでしょう。

日本が制裁から免れている意味はロシアにとって日本を試験しているとみています。日本の出方をうかがっているのでしょう。安倍政権がどのような姿勢をとるのか、今後の試金石となりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。