世襲企業を成功させる「仕組み」とは --- 岡本 裕明

アゴラ

大経営者の後継ぎ問題は世の常と言ってもよいかと思います。なんで二代目はうまく経営のバトンタッチができないのか、もう一度考えてみます。

団塊ジュニアとは一般に71年から74年生まれですから、今の40才から前半ぐらいの方ということになりましょうか? 私がサラリーマンで東京勤務だった時、酒の席でよく聞こえてきたのが「うちの息子(娘)のバカっぷり」で、それはもう爆笑モノの話がごまんとありました。そのお父様はちょうど団塊世代でその子供たちの話ですからまさに団塊ジュニアなのでしょう。


お父様は取締役なのに子供は取り締まられ役(=捕まる)というのは情けない話なのですが、なぜそんな子供が育ったかといえば私の思う理由は二つ。一つは父親が教育を母親に任せ、父親は会社人間と化していたこと、もう一つは家庭が裕福になり、欲しいもの、食べたいものをそのまま与え、我儘出来ず、好き放題をする子に育ってしまったケースでしょうか?

二代目がダメにするというのは一代目、つまり創業者が偉大であればあるほど子供が大物になりにくいように思えますがその理由はハングリーになることが全くないからでしょう。仕事は何か、と聞かれて「生活をするための手段」「お金を稼ぐため」という価値観であればお金がある裕福な家の子供に仕事をしなさいと言っても「何のため?」と聞き返されてします。

私は仕事とは野望であり、ビジョンだと思うのです。お金はついて回るものですから好きな仕事を一生懸命して成功すればそれなりにお金はついて回るものです。私は勘定するほど持つものを持ってはいませんが、そんなことよりもこの仕事、あの仕事をどうにかモノにしてうまく回してビジネスとして成功させる、ということばかりを考えています。ですからお金を使うことは下手クソそのもの。ところが「ボンボン」は成人するまでは使うことを先に覚えますから使うことありきなんです。このポジショニングが絶対的な違いであります。

日経ビジネスに日本電産サンキョーのスピードスケートチームが惨敗した件について永守重信社長がおもしろいことを述べています。「(5位の加藤も6位の長島も)「野心」と「執着心」が足りなかった」と思うとしています。対照的にオランダチームが前回の冬季で7個だったスピードスケートで23個のメダルを取ったその理由について「教えられ、管理してもらうのではなく、選手が強さも富も名声も自分たちで取りに行く、その逞しさに躍進の原動力があったのではないでしょうか?」とあります。

永守社長は一般的な精神論的な話ではなく、仕組みそのものに問題があるとしているのです。これを膨らませて考えれば二代目が会社をダメにし、三代目で潰すというストーリーも仕組みが備われば案外、逆手になるのかもしれません。

創業者ファミリーが陥るのは「先代が作ったこの道を守ることが我々の使命」というありきたりの言葉でありますが、私は決して好きではありません。なぜなら先代が作ったものを守るだけなら番頭にやらせればよく、「自分は先代を抜く」という創業ファミリー間のライバル心が生まれないからであります。二代目、三代目がやらなくてはいけないのは先代ができなかったことを見つけ、発掘し、成長させることであります。

0から100万円を貯めるのは大変です。ですが、100万円から200万円に増やすのは割とできるものです。先代は0から生み出した価値があります。二代目はそれを守りながらそれをさらに増やすのが仕事なのです。増やし方は先代と同様、新たな道を作らなければ決して200万円にはならないことに気がつくでしょう。

では仕組みとは何でしょうか? 私なら二代目には本業と相乗効果が生まれる新規事業をやらせるでしょう。既存のビジネスはさせない。理由は胡坐をかけるから。ゼロから汗をかいてやるしかない。失敗すれば終わり、だけど成功すれば先代の分と合わせて大きなものが得られるという永守流「報酬」です。

勿論、世の中には素晴らしい成果を上げているファミリーはたくさんあります。豊田家もそうでしょう。アメリカのブッシュ家もそうでしょう。でもそれはそれぞれが先代にはない自分の得意技を持ち続けたことが大きな成功の理由ではないでしょうか? 一方、100億円カジノで使う息子もいます。また、最近耳にするのはサムスン電子の現副会長の長男が世襲制をした場合の影響という噂があります。功績がない長男がこの組織を引っ張れるのかと。私は具体的には存じませんが、組織とはその人が魅力的だからこそついてくるのです。魅力のないボンボンはお内裏様以外の何ものでもありません。そういう場合はオーナーファミリーとして経営には口出しせず、買収されないよう、じっと株主配当を待っていればよいでしょう。日本にはそんな人が思った以上に多いものです。日本の将来が時々不安になるのはこういうところからも来るのでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。