慰安婦問題は日韓の「情報戦争」

池田 信夫

今週のメルマガにも書いたが、日米開戦の大きな要因は、東條英機に代表される前例主義だった。日本の意思決定は全員一致が原則なので、少しでも異論が出ると決まらない。逆にいったん決まったことは全員の合意だから、後からおかしいと思っても変更できない。1941年の御前会議で日米開戦の方針に反対した近衛首相を、東條陸相が「それは方針を決める時にいうことだ。決まった以上は断固としてやり抜くしかない」としかりつけたのは有名な話だ。


慰安婦問題をこじらせた主犯は朝日新聞と福島みずほだが、共犯者は外務省だ。まず1992年に、宮沢首相が事実関係をよく確認しないまま韓国政府に謝罪したため、韓国が「強制連行」に対する個人補償を求めてきた。これに対して外務省は、首相が謝罪したという前例を撤回できないので、その理由として「広義の強制」という言葉をつくり、民間の商行為について河野談話で謝罪した。

この騒ぎが国連に延焼してからも、外務省は有効な手が打てなかった。慰安婦を「軍隊性奴隷制」として糾弾した1996年のクマラスワミ報告も、原文のまま採択されてしまった。このとき外務省は40ページにわたる反論書を出したが、なぜか撤回した。当時の村山内閣が止めたともいわれるが、経緯ははっきりしない。これも国会で解明すべきだろう。

もう一つの失敗は、2007年の閣議決定で「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」としながら、「河野談話を継承する」としたことだ。せっかく「強制連行がなかった」と明確に表現したのに、結果的には前例主義で帳消しになってしまった。

これに対して韓国は民間のロビー団体が、クマラスワミ報告などを根拠として国際的な宣伝活動を展開している。今年の6月にもジュネーブで国連が慰安婦についての会合を開いたが、韓国側の出席者は100人で、日本側は30人だったという。外務省は、この問題は政治家の尻ぬぐいだと思っているから、積極的な方針を出さない。

彼らの前例主義をリセットできるのは内閣しかないが、安倍首相がアメリカに口を封じられた今となっては、国会がやるしかない。自民党だけでなく、野田前首相など、野党にも良識派がいるので、超党派で民間団体とも協力して事実を解明すべきだ。

今回の経緯を振り返ってみると、宮沢喜一、河野洋平、村山富市といった「ハト派」の人々が混乱を拡大してきたことが印象的だ。彼らは「日本がアジアに謝罪しなければならない」と考え、誠意を示せば平和が実現すると考えたのだろうが、平和主義が平和をもたらすとは限らない。慰安婦問題は日韓の情報戦争なのだ。

三流国から一流国にはいあがろうとする韓国は、他の面では勝てない日本にこの問題だけは勝とうと、政府が支援して莫大なコストをかけて宣伝戦を展開している。これに謝罪して和解を求めても、事態は悪くなるばかりだ。韓国は説得不可能と見切りをつけ、国際社会に対して誤解を訂正する宣伝戦を展開するしかない。

その際に重要なのは、後ろから弾を撃つ朝日新聞のような嘘つきを撲滅するために、国会が徹底して事実を究明することだ。今夜の言論アリーナでは、片山さつきさんと長田達治さんとともに、この問題を解決する方法を考えたい。