安倍内閣は、成長戦略の効果がでてくるまでのタイムラグをどう乗り切る

大西 宏

アベノミクスの第一の矢の異次元の金融緩和が、円安誘導となり、それが株価を上げる効果を生みました。それが輸出企業の好決算を呼んだわけですが、弊害もではじめてきています。しかし、円安が進んでも輸出は増えず、またインフレを見込んで投資が進むという当初の目論見も成功していません。金融政策の限界が見えはじめてきている昨今です。第二の矢の財政出動の拡大も限界があります。


日本の経済にとっては、第三の矢の成長戦略がアベノミクスの本丸であることはいうまでもないことですが、やはりそれしかないと考える人は少なくないのではないでしょうか。
しかし、問題は規制緩和やその他の企業の投資を呼びこむ成長戦略の手を打ったとしても、その効果がでてくるには2~3年の期間を要することです。

もし日本の産業構造が、成長性の高い分野で、付加価値が高く、また国際的な競争力を持っている産業の厚みあれば、円安はビジネス・チャンスとなり、インフレ期待が加われば、企業投資は積極的になります。
確実に売上の増加、国際的なシェア競争で優位に立てることが期待できるとなれば、企業は敏感に反応します。しかし産業として成熟してしまい、また欧米の経済も停滞してくると、いくら設備投資を行い、供給力を高めても、競争が激化し、価格競争を誘発するだけとなると、投資は望めません。

日本の産業の課題の中心は、成熟した分野から抜けだして、これから確実に成長する市場にどうチャレンジし、成長産業を育てていくかにかかってきています。言いかえれば、企業の投資や新しい産業が起こってくるしかけが成長戦略の本丸になってきます。

規制緩和はそのもっとも重要な切り口になってきます。しかし、たとえばiPS細胞をめぐっては、再生医療分野への期待だけでなく、規制緩和によって、創薬や周辺ビジネスへの参入が活性化してきていますが、本格的に市場が伸びてくるのはまだまだこれからです。
iPS アカデミアジャパン 株式会社

また古い停滞した産業から、より成長性が高く、付加価値の高い産業に人材が移ってこそ、新しい産業が育ってきますが、人材の流動化に対しては、誤解もあってか、大胆な手が打つことが困難で、また実際に人材の流動化が起こっても、それですぐさま経済成果を生まれてくるというものではありません。

そう考えると、そろそろ第一の矢、第二の矢の短期的な効果という点では種が尽きはじめ、第三の矢の効果で、企業が動き出す、たとえ明るい雰囲気だけでもでてくるまでにはタイムラグがでてきます。
しかし、そのタイムラグの間にも、エネルギーコストや、輸入物価は高止まりし、さらに高速道路料金の実質値上げで物流コストも上昇するなど、企業にとっても、国民にとってもつきつけられてくるのは厳しい我慢です。

以前、安倍政権が危うくなってくるのは、外交ではなく経済だろうと書いたことがありますが、その経済状態への不満という時限爆弾が刻々と時を刻み始めてきているように見えます。

ただ、野党があまりに弱く、また石破幹事長の立場が微妙になったことで、与党でも安倍総理と競い合う人材がいないままに、企業や国民が我慢するという時期が長引くのでしょうか。つまらない政局ではなく、安倍内閣がこのタイムラグをどう乗り切るのかが注目されます。

しかし、こういう時にこそ、政府頼みではなく、それぞれのビジネスで、新しい価値創造にむけたチャレンジを行う気持ちをもつことのほうがはるかに大切だと思っています。チャレンジした企業や個人を評価する気持ち、チャレンジ精神を大切にする風土があってこそ、新しいビジネスも育ってくるのですから。