「総合診療専門医」と「かかりつけ医」 --- 嶋田 丞

2014年09月01日 14:51

はじめに

2015年から新たな専門医制度が創設される。あわせて制度の中核的役割を担う「日本専門医機構」が第三者機関として設立され、その組織委員会は、このほど新機構の概要を決めた。

現在、85学会それぞれに認定医制度や専門医制度が存在する。しかし、それらの認定基準は各学会に任されており、統制がとれておらず、ゆえに各学会の認定医・専門医制度の認定と評価に標準化が求められたというのが新制度の背景である。認定・評価基準の標準化により、専門医に対する患者側からの理解と評価を得ることがねらいだ。


制度再構築の大目標は、提供される医療の質の担保、患者の信頼、そして受診への良質な指針である。第三者機関の認定ならば、信頼できる資格として国民に認められ、評価されるであろうが、専門医にとってもプロフェッショナルとして一層の自覚が必要となる。

本コラムでは、この新たな制度の創設に関連してこれまで医療界でなされてきた議論を再整理したうえで、今後のわが国で求められる医師像を考えてみたい。

1.日本専門医機構の設立と総合診療専門医の研修

設立時の社員は、日本医師会、日本医学会、全国医学部長・病院長会議の3団体に加えて、基本診療領域18学会と総合診療領域の学会の参加が決まっている。機構内部には「総合診療専門医に関する委員会」が設置され、委員は日本医師会、病院団体協議会、全国医学部長・病院長会議、6学会、現場の医師で構成される。第19番目の専門医として総合診療が位置づけられたのは、2025年にピークを迎える高齢者の増加に対応できる医療提供体制の整備に総合診療が必須の診療分野である、と認められたからであろう。

このほど委員会で決まった総合診療専門医の研修プログラムの基本骨格は、医学部卒業後2年間の初期臨床研修を終了した後の医師が対象とし3年間の研修を行うというものだ。

その内容は、内科、小児科、救急の基本診療研修を12ケ月。病院、診療所、総合内科で総合診療に関する専門研修を18ヶ月。外科、産婦人科、整形外科、精神科などの関連診療科研修を6ヶ月行い、研修後に総合診療専門医の試験がある。これは、かつて日本プライマリケア連合学会が提唱していた初期臨床研修後の総合医コースに一致する。

その他、すでに地域で活躍している医師が習得するコース、他の専門医からの移行型も検討されている。

2.厚生労働省の総合医(総合診療医)

総合医については、2007年頃に厚生労働省医政局が総合科と総合科医(総合診療医)構想を提示し、次のような医師を想定していた。すなわち、厚生労働省認定の専門医として、診療科全体での高い診療能力があり、患者の疾病に合う医療を選択できる能力を持ち、心のケアから終末期まで人間を総合的に診れる能力を備えた医師、というものである。

同じ頃、保険局や老健局は、後期高齢者医療制度がらみの総合医(主治医意見書を書く、地域で開業する診療所医師)を考えており、後期高齢者を総合的に診る医師、医療だけでなく生活、健康状態も把握できる医師、在宅の終末期も担え、高齢者の生活を知り、支える医療が提供できる医師とされた。これは、現在提唱されている「地域包括ケアシステム」に関わる医師像を示している。

3.日本医師会の「総合医」

2006年、日本医師会は、いわゆる総合医(総合診療医)として医師全体の診断能力を向上させ、総合的な診断能力を備え、全人的な医療を提供できる医師を養成し認定する方向にあった。しかし、地域医師会から、疑問や慎重論が出たことから2008年には専門医としては認めず、日医の生涯教育のなかで、日本プライマリケア連合学会と連携した共同プログラムで「総合医」を認定する方向となった。

しかし、現在、必ずしも両者の協調はとれていない。これは、第三者機構である「日本専門医機構」が主導し総合診療医を第19番目の専門医と位置づけたため、連携の効果が薄れたことが主因と考えられる。

4.かかりつけ医の機能(日本医師会)

日本医師会は、2012年、「かかりつけ医」とは(1)医学的機能と(2)社会的機能を併せ持つ医師と定義づけた。(1)医学的機能とは、日常診療では患者の生活背景を把握し、自己の専門性に基づき医療の継続性を重視した適切な診療を行い、領域外は適切な医療機関へ紹介し、患者にとって最良の解決策を提供することである。(2)社会的機能とは、地域住民と信頼関係を構築し、地域医療、地域保健などの社会的活動、行政的活動に参加し、福祉や介護と連携し、患者が地域で生活できるよう在宅医療にも取り組むこと等である。

現在、日医内部には総合診療医の議論は少なく、地域包括ケアでの「かかりつけ医」機能の充実を目標としている。

5.総合診療専門医の医師像

日本専門医機構が考えている「総合診療専門医」の医師像は、地域を支える診療所や中小病院で活躍する医師で、日常診療で頻度の高い疾病の初期対応を担当する。必要があれば機能別の専門医を紹介。自ら対応できる患者には継続して医療を担う。高齢者対応として他職種と連携して介護サービス、医療サービスを看取りも含めて包括的かつ柔軟に提供する、というものだ。これは、日本医師会の提唱する「かかりつけ医」と大差はない。

6.日本プライマリケア連合学会と総合診療専門医

2012年、厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」で日本プライマリケア連合学会の役員が述べた総合医に関する意見は、総合医とは、頻度の高い疾病と障害、予防、保健福祉などの問題について適切な初期対応と必要な医療を全人的な視点で提供できる医師、初期臨床研修後に総合医コースを設け認定試験を実施する、というものであった。

また、他の役員は、高齢者の増加で認知症や複数の疾患を持つ患者に対応する必要があり、患者・家族中心の視点で中小病院・診療所で総合的診療にあたる家庭医療専門医を養成する。加えて大病院や都市部で幅広い診療を担う病院総合医を養成する、との意見を述べた。

現在、日本プライマリケア連合学会は、総合診療の専門医として相応しいものとするために専門医制度のバージョンアップを進めている。将来的に自らの研修プログラムに沿っていけば、その先には総合診療専門医があるとしている。現在の医療技術の尺度は「臓器別専門医」であるが、今後は、家族・地域社会を視野に入れた全人的医療ができる「総合診療専門医」が必要となる。これに対して日本プライマリケア連合学会の持つ、プライマリケア医認定制度、家庭医療専門医制度、病院総合医療養成プログラムをレベルアップさせて統一したプログラムをつくる方向にある。

地域を支える医療を提供する学会として、現時点で地域医療を担っている既存の専門医との連携強化も求められる。検討課題でもある「他の専門医からの移行型」を使って、既存の専門医も同プログラムに参加可能ではないかと考える。

7.総合診療専門医を目指して

臨床研修医制度が始まってから大学病院の医局や大学院に残る者は減少、逆に大学病院以外で勤務する医師が増加している。それゆえ、臓器別専門医の資格を取得する機会の無い医師、初期研修後に幅広く初期診療(プライマリケア)や家庭医療を目指す医師にとって、「総合診療医」という専門医資格の取得は魅力である。

その他の専門医からの移行も検討されている。移行には、プライマリケア認定医、家庭医療専門医、病院総合医制度を持つ日本プライマリケア連合学会や独自の認定医・専門医制度を持つ日本臨床内科医会等が対応できる。また、すでに地域で活躍している医師が専門医となれる道も検討されており、かかりつけ医機能を重視する日本医師会の生涯教育制度の充実によって、かかりつけ医にも総合診療専門医への道が開けるだろう。

おわりに

2025年をピークとする高齢者の医療需要に対応するために、地域包括ケアのシステム(あるいはネットワーク)を早期に構築する作業が各地で進められている。そして、その中心的役割を担うのが、「かかりつけ医」であり「総合診療医」である。

国が考えている総合診療医は、医療のなかで各科にわたって広く初期診療を行い、臓器別の専門医につなぐ「病院総合医」と、主として高齢者を対象とし、地域において初期診療、専門医紹介、在宅医療、看取りを行う「地域の総合診療医」の2方向の機能を持っている。現在、この2つの機能が混同されて議論がなされており、全体像がまとまらない。

他方、地域が必要としているのは、「総合的な医療と介護の知識を併せ持ち、地域において医療・介護サービスを一体的に提供できる医師」である。そのような医師が目指すべき「総合診療医」と言える。また、現時点において各地域でそれらを主体的に実践しているのは「かかりつけ医」であるのが現実だ。介護の知識も持たず、患者・利用者の生活に対応できない医療だけの「総合診療医」など存在しえない。

患者さんにとって一番身近な存在となりうるのが「総合診療医」である。地域の医療・介護現場の実態が軽視され、医師としてのスキルや専門性の議論ばかりが行政主導で先行する状況を筆者は最も危惧する。総合診療の専門医については、臓器別専門医と違って慎重に議論を進める必要があると考える。

嶋田 丞
日本臨床内科医会 副会長


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年9月1日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。

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