本当に始まる「V-Lowマルチメディア放送」とは --- 中村 伊知哉

アゴラ

さきごろ、TFMの子会社「VIP」が「V-Lowマルチメディア放送の特定基地局開設計画認定」を受けました
 
V-Lowマルチメディア放送とは、地デジが整備されてテレビ局が引っ越したアナログ周波数の跡地のうち、1-3チャンネルで使っていたVHFの低い(Low)ほうを使って新しい放送サービスを展開するものです。これについてはかつてブログにも書きました。
本当に始まるのね?V-Lowマルチメディア放送

地方ブロックを7つに分け、マルチスクリーンを主軸にしたサービス。広告つき無料サービスも、課金型の有料サービスもOK。電波を発射するハード事業と、コンテンツを編成するソフト事業とを分離するハード・ソフト分離型です。


そしてぼくがコンソーシアムの代表を務める「IPDC」を採用します。放送の電波にIP(インターネットプロトコル)という通信技術を重畳し、通信も放送も横断してマルチスクリーンに情報を流す手法です。テレビやラジオというより、ネットです。放送チャネルというより、アプリです。

同じアナログ跡地でも、高いほうのV-Highはフジテレビなどテレビ局各社とNTTドコモとのジョイント「NOTTV」がスマホ向け有料テレビ放送を提供しています。これは通信資本で放送を行うものであるのに対し、V-Lowは放送局が通信的なサービスを行うものなのです。

通信・放送融合が政府で議論されるようになったのが1992年。いわゆる「融合法制」の議論が始まったのが15年ほど経った2006年で、それを体現した法制度が整備されたのは4年後の2010年。それから4年経ってようやく実態が現れてきました。これが普及するのはオリンピックの頃でしょうか。

ただし、通信・放送融合を放送側から見ると、コンテンツの議論が大半でした。コンテンツのネット配信や、せいぜいスマートテレビ。それはとても重要なテーマなのですが、ぼくがV-Lowに注目するのは、放送局の経営資源にはコンテンツと並ぶ経営資源、そう、「電波」があって、その有効活用がようやく具体化するという点です。

地デジによって放送の電波はデジタル化され、太束のダウンロード回線としていろんなことに使えそうなのに、結局その上にはテレビ・ラジオの番組がそのまま乗って配信されるに過ぎず、整備コストがかかった割に回収法が見えません。
 
対してV-LowはIPDCで電波の活用を手がけます。まずはB2Cとして、ハイレゾ音響を届け、音の高精細化を進めるほか、番組の全テキスト化を行い、SNSとの連動を高めるといったプランが考えられています。IPによる回線利用の拡大ですね。

それ以上に期待するのは、B2Bの使い道。例えば自動車メーカーがカーナビその他の情報提供に使うとか、地方自治体が防災行政情報を提供するために使うといったアイディアが進められています。以前、ぼくのグループがIPDCで新聞や雑誌の紙面をそのままマルチデバイスに届ける「AMIO」というプロジェクトを進めていましたが、そのような使い方も可能です。つまり、放送の電波をバルク貸しするわけです。

これは具体的な使い方によっては制度上、放送ではなく通信に当たるもので、それこそ2010年の新法制が予期した利用法なのですが、さらなる規制緩和も必要になりそうです。それは4兆円の放送産業が16兆円の通信産業に参入することでもあります。果たして、通信・ITから放送への侵入を嫌っていた放送側が、態度を改めて反転攻勢できるのかどうか。

この使い方はデジタル教材の一斉配信にも使えます。教育産業20兆円にデジタルとして入り込んでいく、という意気込みが現れることをさらに期待する次第です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。