決闘は、かたちを変えて現れる --- 中村 伊知哉

2014年09月22日 11:14

決闘は、儀式です。エンタメです。昔は合法的な紛争解決法として扱われていました。公より個が優先されていた時代の遺物。日本では1890年、刑法の制定よりも早く「決闘罪」が定められて禁止されています。その後、この罪が適用される事例はほとんどなかったそうです。

ところが、先ごろ福岡県で、中学3年生の男子13人が「決闘」容疑で送検されるという事件がありました。LINEで呼びかけて決闘に至り、見物も100人に及んだといいます。LINEという技術が果たし状を投げつけ、身近な観客も簡単に動員する。決闘を増殖させる道具なのですな。


LINEはクローズドなタコつぼ型のコミュニティを形成します。その中は濃密なコミュニケーションで沸騰する一方、外界とは遮断され、世間からは見えにくくなります。これはヤバい。当局もやむなく124年前の法律を倉庫から引っ張り出してきたようです。
 
決闘という120年前の社会がデジタルで再現されます。教育情報化にも似た話があります。デジタルによって、進み具合に応じて違う教材が与えられ、ネットでつながった生徒同士が教え合ったり学び合ったりする。生徒が同一教材を持って一方を向いて先生の話を聞くスタイルに変化が生じます。

そのデジタルの授業方式は、江戸の寺子屋のものなのです。年齢の異なる子どもたちが、進み具合に応じて異なる教材を使い、車座になって教え合ったり学び合ったりする。明治時代、工業社会に入ろうとし、均一の人材を大量生産する一斉学習スタイルへ移行しましたが、情報社会には改めて別のスタイルが求められているのでしょう。

コミュニティがタコつぼ化する一方、すさまじくオープンなグローバル化が襲います。クローズドとオープン、どちらに身を委ねましょう。先日、「IP2.0」と称する研究会の第一回シンポが開催され、カドカワドワンゴの角川歴彦さんと川上量生さん、知財本部初代事務局長の荒井寿光さんによるパネルの司会をぼくが務めました。その際も同じような議論になったんです。

海外のサーバに国内ルールは適用されず、著作権や税制などで日本企業が不公平な扱いを受ける。コンプガチャ問題を契機に日本のゲーム会社は自主規制を敷いたけど、グーグルやアップなど国際プラットフォームは従わないので、国内ゲームメーカーが海外に抜け出す。タコつぼニッポンはどうすればいいか。

フランスやイタリアはグーグルに罰金や税金を課したりするし、中国は外国企業の活動に制限を加えたりします。域内ブロック戦術を堂々と講じてきます。タコつぼ強靭化です。ブロック経済は過去に戦争を誘ったかどで政治経済的に分が悪かったのですが、デジタルでは肯定論も現れています。さほどにグローバル化がすさまじい。

EUや中国がタコつぼブロックを作るなら、日本はどうする。タコつぼろうにも日本だけでは食えなくなっています。だからといってアメリカを頼ろうにも、攻めているグーグルやアップルやアマゾンはアメリカです。

これに対し、各国ルールを抑えて、よりオープンでマルチな国際ルールにシフトする手もあります。通商ではWTO、知財ではWIPO、最近ではTPP。TPPでの知財は「難航分野」に位置づけられ、つまり、どないもならんゆうことですが、仮にうまいこと行くとすればですね、ワン・ルールで世界市場がフラットになるんですから、メリットは大きい。

近代国家ごとの規制やルールか、マルチな国際社会がいいのか。ウィルソンが国際連盟の結成に向けて平和原則のええかっこしいをしたのは1918年ですから、これまた100年の課題であります。それがここにきて問い直されているのは、これまたデジタルの力ですね。

揺るぎないと思われていた国家というパワーがグラグラしています。国際的な企業プラットフォームが時には国家の権力を超える国際パワーを発揮します。同様にTPPでは、国のメタレベルのグローバルな意思決定が求められています。

IP2.0では議論が深められませんでしたが、もう1つの、より重要なパワーシフトは「ユーザ」でしょう。ネットによって連結した民衆が国家を上回るパワーを発揮する。アラブの春などで、ぼくらは政変さえも目の当たりにしてきました。

国vs民衆vs国際プラットフォームvs国際社会のせめぎ合いはしばらく続くのでしょう。民衆の中の、個人どうしの決闘はダメだといいます。タコつぼ内の諍いがタコつぼに収まらず、つぼの外の観客を集めたり、他のつぼに伝染したりすることを当局は恐れます。でも、国と民衆と国際パワーとの間の決闘は、大小かたちを変えて現れる。どう進むのか。それが次世代の知財=IP2.0の最重要テーマだと考えます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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