「維新の党」の外交安保政策(下):地域秩序及び国際秩序に無関心

站谷 幸一

「維新の党」の外交安保政策(上):日本防衛以外は無関心」の続きです。


4.地域秩序及び国際秩序に無関心
第三は「地域秩序及び国際秩序に無関心」なことである。
現政権が「積極的平和主義」や地球儀外交等とのたまいながら、「マオタイ飲んで日中友好万歳と唱和する程度の首脳間交流」しか出来ず、イラク情勢やウクライナ情勢、果てはボコハラム程度にすら何ら関与や仲介のフリすら出来ず、遅まきながらイスラム国に言及したかと思えば小切手外交しか出来ない中で、「維新の党」を批判するのは不公平かもしれない。

だが、実はこの点は、現状の日本外交の問題でもあるので論じておこう。

第一でも述べたが「維新の党」の綱領及び基本政策からは、目指すべき国際秩序像が見えてこない。「価値を共有する諸国と平和の増進に貢献する」「ソフトパワー外交の積極的展開」がそれだと言う反論もあるだろう。だが、やはりこれらは、ぼんやりとした手段でしかない。これによって目指すべき国際秩序が不明なのである。要するにソフトパワー外交で何を実現するのか、目指す平和の中身は何かが不明なのである。

私は「維新の党」に期待もするからこの点ははっきり強調するのだが、この点をクリアしなければ、橋下氏は政権奪取後に安倍首相の轍をより深く踏んでしまうからである。

結局のところ、安倍首相が欧米メディアでしばしば一方的に批判され、中国のプロパガンダが受け入れられてしまうのは、安倍首相が目指すべき将来像や戦略を示さずに、セキュリティダイヤモンドや地球儀外交に代表される対中包囲網形成、集団的自衛権解除、防衛予算拡充や海兵隊化、積極的平和主義、日本版NSC、秘密保護法、河野談話検証、戦後レジームの打破(これは一次政権だが)と手段ばかり強調し熱を入れるからである。

要するに、集団的自衛権解除だけ見ても、これでなにがしたいのか漠然としているのである。

つまり、どういうゴールに行きたいかよくわからないが、とにかく軍事力を増強し、活動量を増やし、過去の歴史を見直そうとしているというのが、欧米のメディアや専門家が抱く第一印象なのである。

そして、そこにインプットされるのが安倍首相の靖国参拝、侵略の定義が分からない等の失言、戦車や731番号練習機への搭乗等の言動、歴史修正主義者たる側近たちの愚劣な発言なのである。

となれば、欧米のメディアや専門家達が、安倍首相に対して「やはり軍国主義者の修正主義者か」「だから何を目指すのか言わないのか」と邪推してしまうのは無理もない。ここに安倍首相の悲劇があるし、彼が日本の首相として不適格な理由があるのである。

安倍首相は流石に軍国主義者ではないだろう。歴史修正主義者というのも半分当たっているが、中国が言うほどでもないし、彼らに言われる筋合いもない。安倍首相は大きな政府論者だが、全体主義者ではないだろう。

批判的な私でもそう思う。

だが、安倍首相だけが、同じく靖国参拝した小泉首相と違い、こうした半分間違った評価をしばしば受けてしまうのは、彼が戦略達成の細かな『手段』だけを異常に強調して目指すべき秩序観や戦略を示せないのに、本人と側近が愚劣な言動を繰り返しているからである。

例えるに、隣人がネット右翼(新左翼でもいい)的な言動を行い、猟銃やらスタンガンを大量に購入し、「この銃があると動物が良く撃てるんですよ!」「この銃は性能がいいんです」「最近物騒だから自衛、子供と妻を守るためです!貴方の奥さんとお子さんも守りたい!」とばかり叫び、それによって何がしたいのか、そもそもどういうご近所関係を作りたいのか説明がなければ、危険人物として警察に通報されるのと同じである。これを誤解だと庇う人はいない。真意はどうあれ、単なる自業自得だからである。

橋下氏も将来的に首相ポストなり、そうでなくても彼が代表を務める「維新の党」が政権与党となれば同様のことになるだろう。市長だから当然なのだが、彼から目指すべき国際秩序や地域秩序についての発言はほとんどない。

既に述べたように、今回の綱領や基本政策にも、目指すべき国際秩序や地域秩序は触れられていない。目指すべき価値観もない。そこにもってして、慰安婦問題についての彼の言説である。

彼の主張の適否はともかく、現状では欧米では歴史修正主義者と捉えられており、訪米できなかったようにかなり極端な受け止め方をされているのは間違いない(橋下氏は先の戦争を侵略戦争と度々主張しているのにもかかわらず)。

これでは、政権を取った場合、何を目指すのかよくわからないけど、手段ばかりこだわるし、物騒な発言が多い。やはり危険人物か、となるだろう。そして、安倍首相と同じ轍を踏むだろう。

この場合、正面からの論争を好む橋下代表の性からして、より自体は悪化し、より間違った誤解により警戒され、最悪の場合、「会ってはならぬ人物」としてワルトハイムや鳩山首相と同様の扱いを受けるだろう。

そうあってはならない。
であるからこそ、明確に秩序観を綱領なり基本政策で示すべきなのだ。党の基本政策や対外メッセージが「地域秩序及び国際秩序に無関心」と受け止められる内容であってはならないのだ。もし、具体的な目指すべき秩序や平和が事前に明確に示されていれば、誤解される度合いや確立も下げられるし、政党としてはしっかりしているという弁護も受けられる。

そして、そこから適切な戦略と政策も導けるし、議論もできるメリットもある。逆説的だが個別の政策論議を専行させても、まともな戦略や政策は出てこないからである。

今後の野党再編の進捗によって改訂されるであろう綱領や基本政策の内容で、この点が改善されることを橋下代表と「維新の党」、そして何より日本の為に切に望む。

おわりに
「維新の党」が前例なきほど、入念に政策協議を重ね、65項目にもわたる基本政策で合意したのは高く評価するべきである。そこにおいては多大な互譲が存在し、まずは合意できる内容を纏めあげたというのが実情だともよく理解できる。そして、そもそも今回公表されたのは、あくまで最初の出発点でしかないというのもわかる。

党名の英訳を旧来のRestorationから新たにInnovationへ変更したことは対外的には下手な政策よりも一万倍効果的であるし、称賛するべきだろう。かつての党名では王政復古政党だの反動右派政党と対外的に思われかねないからで、これは名訳だろう。御見事としか言いようがない。

であるならば、「何故、ここまでズタボロに批判するのか?」というお叱りは当然かつごもっともである。「理屈は貨車でついてくる世界にムキになっているのか」というご批判もあるだろう。

だが、私は敢えて今回の綱領と基本政策を敢えて批判したのは、彼らに非常に期待もするし、老婆心も抱くからである。

今や国際秩序はゆるやかな崩壊を続けている。こうした環境下で生き残るためには、従来の官僚機構主導の重厚長大な政策ではなく、民間活力を全面とした「民権」政治の復活しかない。日本国民一人一人が自由闊達に固有のポテンシャルを発揮し、時には一体化して戦っていくにはそれしかない。

その意味で、「維新の党」には柿沢未途代議士のような「民権政治家」が政党の顔役たる政調会長を務めている。東京6区の落合貴之氏のような「民権」を目指す候補者もいる。外交分野では、先述の柿沢政調会長を筆頭に、林宙紀代議士や青柳陽一郎代議士のような外交安保を専門とし高い評価を受けている議員もいる。

故に、将来的にはもっとよい綱領や基本政策が出てくると期待するからこそ、その門出に血のにじむような努力を重ねたであろうからこそ、その結果に当方も真剣に向き合い、真面目にその課題を論じた次第である。今後の党内外を含めた議論とそれによる「維新の党」の外交安保に関する綱領と基本政策の発展・改善を望むや切である。

付記:本当の戦略
本当の戦略が安倍首相も維新の党にもないと述べました。では、本当に外交戦略とはどういうものか。それは、例えばルトワックが提唱した対中ヘッジのための「ハイフォンからコルカッタまでの日本主導のハイウェイ構想」や、中国の「陸海シルクロード構想」ようなものを指すのです。要するに集団的自衛権とか機雷がどうのこうの本当に下部の話でしかないんです。

私は集団的自衛権に反対だとか意味がないと言っているのではなく、その上部構造が欠けてませんのか?と指摘しているのです。つまり、あるべき国家価値、そこから敷衍する国家目的(国益)、それを阻害する脅威、それを打ち砕く戦略、その為の政策ちというのがあるべき論理構成と議論であって、いきなり個別具体的な防衛政策に議論や主張に行くのはおかしくないですか?ということです。個別を最も重視するからこそ、その背景や前提がなければ議論できないと言いたいのです。

站谷幸一(2014年9月23日)

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