どうしても複雑になりがちな「税」のシステムを考える --- 岡本 裕明

アゴラ

私がカナダに着任した92年、どうしてもやらなくてはいけない仕事の一つに税務対策がありました。税務対策といえば儲かってしょうがない企業がその税金を減らすために策を企てるのが普通ですが、私への使命は「儲かるかもしれない事業の税務対策」という捕らぬ狸の皮算用でありました。今考えればお笑い話ですが、当時はコンサルタントを交え、大々的なストラクチャー変更が行われ、税対策の虚像がそこに生まれました。


今、本当に儲かっている国際企業がどうやって税を減らすか、特にアメリカ企業はその対策に躍起で、すでにいくつかの誰でも知っている企業がやり玉に挙がっています。日経の記事にはアップルの税対策をめぐるアイルランド政府の税優遇の内容についてEU内の欧州委員会が疑問を呈した、とあります。つまり、やりすぎ、という事でしょうか?

アイルランドとしては国際的大企業を自国に誘致することで様々なメリットが取れると期待したもののお目付け役の欧州委員会から指摘を受ける事態になったことが世界の税務の難しさを物語るのではないかと思います。

税の難しさは企業がいかにして税を逃れるか、そしてそれを捕捉しようする当局とのイタチごっこであります。例えばアメリカ国内を見れば多くの会社がデラウェア州で設立登記をしています。その数、30万社、NYの上場企業の6割とも言われていますが、それは税のメリットも含め、会社設立するためのインフラがそこに集約されていると言っても過言ではありません。

その次にタックスヘイブンと称されたケイマン島などの小島が国際企業の人気の流行となりました。あるいは一昔前、ブラジルで国内企業の外貨持ち出しが厳しく管理されていたころ、隣国のウルグアイにトンネル会社を作ったりしたこともありました。私もずいぶん前にウルグアイに行ったことがありますが、ケイマン同様、自国産業がない国が無理やり魅力的な「化粧」を施して「いらっしゃい」と手招きしているような印象をうけました。

更に移転価格の厳格化も国際税務の複雑さを示した良い例だと思います。一言で言えば関連企業間の取引にお手盛りは許さない、という事です。海外子会社A社が親会社B社からモノを購入するときには公正なる価格で取引しなさい、ということです。仮に市場価格より安ければ海外子会社は通常のビジネスよりも余計に儲けることができるし、販売した親会社は得られるべき利益を放棄したとみなされて、税務当局がここぞとばかり取り調べるのであります。

同様に関連会社間の資金の貸し付けも市場の貸し出しレートを参照にしながら特段高くも安くもない金利をつけなくてはいけません。

こう見てくると二国以上にわたって活動する企業は実に細かい様々なルールと対峙しながらビジネスを進めていかねばなりません。

更には以前も取り上げましたがそこで働くであろう個人の所得の扱いも国によって様々なルールが規定され、その稼いだお金を送金する際にも細心の注意を払わないと「お尋ね書」が送付されてきてしまいます。また、日本企業は往々にして福利厚生が充実していたりするのですがそれを海外では所得とみなすことが多く、税金をがっぽり持っていかれるのであります。その点は日本は甘い気がします。

各国は税制度を毎年見直し、逃れにくくするよう複雑にし続けています。その結果、企業はそのルールを理解するため相当の努力をしなくてはいけないのです。当然ながら税務コンサルタントが暗躍し、高いフィーを吹っかけてくる土壌も生まれます。

国や州によって税制が変わり、メリット、デメリットを作りすぎた結果が企業の海外移転や税収の欠落にもつながっています。税は取ろうとすると逃げるわけで日本の歳入も国家の規模、企業の業績の割にあれっというほど少ないのはそのような「ゲーム」があることも大いに考えられます。

また、産業育成のための助成金が日本の場合非常に大きいのですが、一度貰い癖をつけると貰わずにはいられないのが業界の性であります。補助金行政を止めるという大鉈も税収の損得勘定の中で考えなくてはいけないことではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。