大衆向けと富裕層向けのマーケティング戦略はここが違う --- 岡本 裕明

2014年10月24日 15:29

最近話題にならなくなったガジェットで思いつくのはリストウォッチ型のITディバイスでしょうか? サムスンが初期マーケティングをしましたが、その前後には多数の企業が同事業に参入、半年後には乱戦状態でどこの会社が何を売っているのか、フォローするのも大変な状態でした。その上、本丸、アップルはアイウォッチ発売の噂が出ては消え、を繰り返しています。最近の噂では2015年春に「アップルウォッチ」の名称でいよいよデビューか、されており、かなりはっきりした情報もリークされていますのでこれは本当かも知れません。


リスト型のディバイスが発売されて2年以上経つものの今一つ盛り上がらないのはブランドイメージを作り上げるべく企業がその明白な方向性を打ち出せなかったことにあります。つまり、この場合はサムスンを責めるべきであります。世の中にない商品を市場に送り出す場合、私はある鉄則があると考えています。それは一気に大衆市場に入るべきではない、ということです。

サムスンのマーケティングの間違いは製品として十分な機能やデザイン、商品としてのメッセージを備えないまま、他社の動向を気にするあまり中途半端な形で市場に投入してしまったことにあります。そして、その販売ターゲットを一気に大衆向けとしたために市場での評価の足並みが揃わず、他社の追随を許したのみならず、自社のブランドイメージを崩してしまったと言ってもよいでしょう。

市場にない製品を投入する場合、通常、市場テストを行います。日本でも北海道限定で発売するといった手法がよくとられるのですが、それは製品の完成度、顧客側の反応、販売力などをつぶさに観察し、その上で不足点を補ったりするのです。特にITディバイスの場合、すでに大衆市場で高い期待が生まれているため、その期待を上回り、且つ、サプライズが求められます。これが残念ながらできませんでした。

一方、最近成功したマーケティングの例として電気自動車、テスラを挙げましょう。

日本では話題になった三菱のミーブ、日産のリーフは販売時こそ、話題性もあり、急速な普及の可能性を見せました。ところが2012年にその勢いはほぼ止まり、2013年の電気自動車の販売台数はそこそこにとどまっています。統計を見てみましょう。

2010年はミーブが先行、リーフが年末に販売になった年です。この年の日本に於ける総販売台数が2359台。2011年は13449台、2012年が15897台となったものの2013年は16575台、2014年は8月までで10423台ですから単純年換算をすると15600台余りと全く伸びていないことがお分かりいただけると思います。この数字にはトラックや商用車も含まれています。また、2014年8月には契約されたテスラが4台含まれています。

つまり、電気自動車としてのマーケティングはほぼ完全に失敗していると言ってもよいのです。

理由はターゲットマーケットを間違えてしまいました。小さい車で航続距離が短く、充電の手間がかかる車はハンディを背負いすぎています。大衆にとってネガなこのイメージを崩すにはそれを覆さなくてはいけません。テスラは正にそこが上手かったのです。

まず、車体は全長5メーターで重厚感があり(まさにフルサイズ車です)、航続距離は500キロ近くいくことが売り物です。これはリーフの倍。充電は440Vならば45分で終わりますから極端な話、スタバでコーヒーを飲んでいる間に充電完了という感覚です。価格も800万円近くながらそれをアメリカの富裕者層に売り込み、そこで高い評価を得たことが勝因でした。成功者が環境を考え、テスラに乗り、良い車だとボイスを発することで強い信憑性をもった噂が瞬く間に全米を駆け巡ったのであります。これは何よりも強力なマーケティングであります。

今後、充電器のインフラが充実している日本には世界の電気自動車が続々投入されるはずです。BMWやVWなど欧州勢も既にその方向ですが肝心の日本のメーカーからは全く覇気のある声が聞こえてこないばかりか、このままでは外国の車ばかりに補助金を出すのか、という罵声が飛んでくることはほぼ確実です。

富裕層を高い知識、商品を選別する能力を持つ成功者と位置づければ、その人たちを唸らせる製品を作ることは容易ではありません。私も北米で高級住宅を作り続けた経験からは価格や話題性のガジェットではなく、よく考えられたこれは素晴らしいと思われるものだけが評価されることは肌身を通じて理解しています。

それは北米という人種のるつぼのようなところで様々な角度の目線から厳しい批評を受けるからこそできるものという考え方もあります。サムスンの時計型ITガジェット、あるいは日本発の電気自動車は新製品としての目新しさだけが目立ったものの唸らせるほどのものではなかったことにポイントがあると思います。私はめったにしないですが、以前、運転していた際、テスラが走っていた時、思わずついて行ってしまったその理由は一目見て「すごい!」と感性に訴えたものがあったから、という事で今日の結びとしましょう。

今日はこのぐらいにしておきます。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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