小学生に反転授業は可能か? --- 中村 伊知哉

2014年10月27日 08:31

デジタル教科書教材協議会 DiTT が「小学生に反転授業は可能か?」というシンポを開きました。反転授業。タブレットなどで映像で予習して、授業は議論したり応用問題に取り組んだりする。家で予習、学校で復習。学校で習って家で宿題で復習する授業を「反転」するからそう呼ばれてるんですね。もとは英語のflipped classroomの直訳なんですけど、それが日本でも少しずつ高等教育で実態が現れてきたというんで、先駆者の方々に「それって小学校でもイケるの?」というお話を伺ったんです。


国内で最初に反転授業を導入した宮城県富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰さんと、今年度から反転授業の実施を開始した武雄市教育監で武内小校長の代田昭久さん。場所は東京大学。ニコ生中継したところ、1万5千名のかたにご覧いただきました。
 
佐藤先生は、一人一台のタブレット端末を使わせつつ、電子黒板やプロジェクタで授業を進めたそうです。でも、生徒が家で映像を見るために、映像コンテンツを一台一台、手入力されたんですと。ネット一斉配信ができなかったんですね。いやあ、そりゃ大変だ。

反転授業をやってみて、保護者からは、「先生の授業が保護者も見ることができて役立った」という声があったそうです。子どもだけじゃなくて、保護者も学校の授業に参加することができる。学校が地域に開かれる。これは一つの大事な効果ですよね。

子どもからは、「人の考えにつられずに自分の意見を言えるようになった」とか、「家で予習をするクセがついた」といった声。まあそうでしょうね。その上で佐藤先生は、「この授業スタイルは、授業デザイン力や子どもを把握する力などを教師につきつける」といいます。導入するにも覚悟が要ります。動画を自作するコストなど、教員の負担増は厳しい課題です。

代田先生。武雄市では市内全11小学校で70名の先生が参加し、600回の反転授業が行われているそうです。6年生の算数の授業で聞いたところ、授業がわかった94%:わからない6%。全国アンケートでは、わかった80%:わからない20%。普段の授業より反転のほうが楽しい、は70%。変わらない・楽しくないは30%だそうです。有意の効果ですよね。

武雄市の反転授業は、そう呼ばず、「スマイル学習」と呼んでいます。当初、この授業を導入しようとしたところ、保護者から「家で私が教えるなんてムリ!」という反応があったとか。その誤解は、「反転」というネーミングにあるんじゃないか?ということで、呼び名を先生から募集して、「スマイル」に落ち着いたんですと。

取り組む目的は3つ。子どもが「意欲」的に取り組める。教員が子どもの実態を「把握」する。授業では問題解決「能力」を育てる。意欲・把握・能力ですね。その成果は上がっているんでしょう。これまで受動的だった子どもたちがより主体的になる。教師が講義形式から協働学習へとスタイルを変える。その方向も出ているようです。

ただ、課題は山積。どの教科でどの程度、実施するのか。動画コンテンツは誰がどう作るのか。授業内容をどのように評価するのか。これはわれわれも協力して、一つ一つ明らかにしていきたい。
 
デジタル教科書教材協議会DiTTを設立して4年。子どもに一人一台のコンピュータをと唱えてきましたが、「パソコン売りたいだけだろ」「ネット業者の手先」「中村伊知哉は電子工作員」といった批判を受けてきました。そのたび、授業が変わるんです、教わるから学ぶに変わるんです、と説明してきたものの、迫力に欠けていました。でも、やっとその実態や成果が学校現場に現れてきた。語るべきひとたちが現れてきたと思います。

彼らは課題を抱えています。反転授業によって、先生の「負担感」が重くなる。コストもかかる。保護者が急速なデジタル化に不安を抱く。そうした課題を解消するのは、もはや政府の仕事ではありません。学校・自治体、そしてぼくたち民間の関係者、みんなで解いていくしかない。

佐藤先生「日本の先生はみんながんばっている。それが成果となるよう、広げていきたい。」代田先生「文科省の問題ではなく、それぞれの学校にたまっている成果を活かす。いい先生とはどんな先生か。それを考えて、広げていきたい。」そのとおり。こんなイベントに時間を割いて参加し、ニコ生を見ている多くの先生は、いい先生です。

文科省は教育情報化4ヵ年計画を立てました。現在、6.5人に1台のコンピュータを一人1台にするのは大変です。文科省はそのための予算6712億円を用意し、年1678億円でこれを進めます。2017年度末には、これによって3.6人に1台まで進みます。一人1台には達しませんが、まずこれを経ないことには始まりません。

でも、この予算は「地方交付税」として自治体に配分されているものでして、ヒモつきではないので、それを使うかどうかは自治体任せなのです。これが道路や橋に化けたりしているんですよ。国としては措置済み。でも地域のニーズが低ければ使われない。

武雄市、東京都荒川区、大阪市など、首長の馬力で教育情報化を進める地域は、予算はあるから進みます。そうでない地域は予算はあるけど進みません。つまり今、格差がハッキリ現れる状況になってきているんです。全国の自治体、全国の首長がどう認識するか、で道が別れるんです。 

今回、2地域による反転授業=IT授業の実態を教えてもらいました。こうした実例、こうした成果をいかに全国に伝播させるか。これがぼくらの仕事です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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