慰安婦問題、中井知之論文で考えたこと --- 井本 省吾

2014年11月18日 18:06

中井知之氏がアゴラで「慰安婦問題~韓国の戦術から日本の対応策を考える」と題する論文を書いている。

「日本を貶める韓国団体のやり方に対して、今までの日本の反論は説得力が乏しく、国際社会の反発を招く。もっと明確な事実を示した有効な対応策が必要だ」という論考で、考え方と方向性について異存はない。ただ、賛成できない点、食い足りない点があるので、そこを論じたい。


中井氏の論点を要約しながら、やや長めに引用すると、こうだ。

<韓国側は、「日本軍の関与」といった曖昧な言葉・文章を駆使して「日本人が徴用や慰安婦狩りをして性奴隷にした」かのような印象を与え、日本人を「捏造だ」と反発させて不利な状況に追い込むという、結構高度な戦術を取っているように思える。……このような状況下では「本物の嘘」も通りやすくなる>

<韓国側が「曖昧戦術」を取っているなら、日本は「はっきりさせる戦術」を取らなければならない。相手の使う曖昧な言葉や文章を否定しても、実際に起こった事実は明確にならない。大事なことは「実際にあったこと」「日本は何に対して謝罪したのか」を明確に限定して、それに対する反省、償いを示すことだ。河野談話はこれが限定されていないので、韓国にうまく利用されているように思える>

<近年、国際社会では「女性の人権」への関心はますます高まってきている。現代は、アメリカ国務省も年次報告書で「JKお散歩も新たな人身売買」と言って日本を非難するような時代である。欧米では(日本軍が──引用者注)移送・管理」に携わった時点でほぼ同罪なのである>

<「過去の日本」に対する誤解を解くのは、圧倒的形勢不利の現状をいくらか改善してから、つまり、「現在の日本」が「女性の人権を重視する国、人権意識の高い国」と認めてもらってからにした方がいいかもしれない>

<「日本軍が使った業者が甘言・人身売買を行っていた」「日本軍も移送や管理に携わっていた」「業者が虐待・搾取を行ったり、日本兵が暴力を振るった例もあった」という事実、管理者責任を素直に認めれば反感も買わないし、「強制連行がなかった」ことも、「業者の関与」もはっきりする。そして、河野談話や首相名義のお詫びの手紙、アジア女性基金は、現在の日本が人権問題に非常に前向きである証となる。「首相名義のお詫びの手紙」を「不十分だ」と主張するには相当な理由が必要だ>

<「日本は確かに悪いことをした。だから十分な対応をした」という前提を明確にして初めて、「他の国もやっていた」「昔は当たり前だった」ということが言える。単なる「お前も同類さ」という論理は国際社会で評価されない。「日本は使用者責任を認めて償いを行った唯一の国である」という優位性をアピールする必要がある>

<韓国の「慰安婦問題は現代にも通じる普遍的な女性の人権の問題だ」という主張は、ある意味ハードルを下げているので、共感は得やすいかもしれないが、ブーメランにもなりやすい。「『女性の人権の問題』と言うなら自分たちのやったことはどうなんだ。日本と違って何の反省も償いもしてないではないか」とも言えるし、「過去の問題を取り上げ対立するよりも、現代の問題を解決すべく国際社会が一致結束すべきだ」とも言える>

<慰安婦問題について、韓国側は「被害者側」というアドバンテージを持っている。加えて、国際世論をしっかり意識しているし、多様な攻め方をしてきている。日本国内の議論も観察して戦略を練っているのだろう。それに比べると、日本の政治家は、もろに韓国の戦略の追い風となるような言動も多く、あまりに勉強不足の感は否めない。単純に反論するのではなく、韓国の戦略や国際社会の感覚をしっかり見極めて対応策を考えてほしい>

以上、基本的に賛成だ。食い足りない点というのは、具体的な反論や政府の対策があまり書かれていないことだ。

例えば『『女性の人権の問題』と言うなら自分たちのやったことはどうなんだ。日本と違って何の反省も償いもしてないではないか」という点である。

韓国は朝鮮戦争の時に、韓国軍と米軍、国連軍に対する慰安所を用意した。ウィキペディア「韓国軍慰安婦」によると、韓国軍は直接慰安所を経営することもあり、部隊長の裁量で周辺の私娼窟から女性を調達し、兵士達に補給した。補給された女性達は、前線に送られる際、ドラム缶にひとりづつ押し込められた。米兵も利用した韓国軍慰安婦には韓国政府やアメリカ政府による強制があったとされている。相当にひどい人権蹂躙があったわけだ。朝鮮戦争後にも慰安婦制度は続き、その数は30万人余りに達したと推測されている……。

米軍は日本占領時にも日本政府に慰安所を創設を要求している。占領軍の要請は事実上の強制である。さらに当時は、日本女性に対する米兵によるレイプ事件も頻発した。それに対する米政府による日本への謝罪はない。

韓国の慰安婦は今も活動しており、米国はじめ世界に進出している。それを許す韓国政府はどういうつもりか。韓国が「慰安婦問題は現代にも通じる普遍的な女性の人権の問題だ」というなら、まさにブーメランのように、天にツバするように、自らに降りかかる。

日本の外務省はその点を明らかにし、韓国政府や米国政府に厳しく追及すべきだろう。また国連の人権委員会にもその事実を伝え、同委員会で糾弾するようにさせるべきだろう。

また、日本は「業者による慰安婦の人権を踏みにじった当時の事態を反省している。だからアジア女性基金も作った」としたうえで、強制連行はなかったという点は明確にしなければならない。

この点、中井氏が次のように書くのはいただけない。 

<外務省がクラマスワミ報告反論書公開について「人権問題に後ろ向きに取られる」と難色を示すのは理解できなくもない。安倍首相もそうだが、「吉田証言」「強制連行」「性奴隷」にこだわっていると、「業者の甘言・人身売買」「国家(組織)による管理売春」という「現代にも通じる普遍的な女性の人権問題」の重大さを認識していない、「戦前と変わらない、人権意識の低い国だ」と受け取られてしまうのだ>

クラマスワミ報告は朝日新聞の誤報、捏造に基づいた間違った報告書だから反論するのである。中井氏の言うように「曖昧にではなく、具体的に、厳密に、明確に」反論するのである。

でないと、誤解が国際社会に定着してしまう。中井氏は元外交官の東郷和彦氏の意見を次のように、やや肯定的に取り上げている。

<東郷和彦氏の『歴史と外交』によると、2007年のワシントンポストの意見広告「The Fact」の「日本軍による強制を示す資料はない」「性奴隷ではなかった(高収入を得ていた)」「証言は信用できない」等の主張や証拠を読んだ友人のアメリカ人は、「総理の対応がその後抑制的になっていたので、せっかく沈静化してきていたのに、これでまた決議案支持派は息を吹き返すね」「広告の中には正しいことも書いてある。しかし、一番大事な『日本は反省している』ということがほとんど書かれていない。この広告を見て自分は意見を変えた。やはり決議案は成立させた方がよいと思う」と語り、実際、下院121号の謝罪要求決議案は可決された>

「広告」が反省していない印象を与えたのはまずかったかも知れない。だが、私は東郷氏の態度を認めることはできない。いやしくも、国の税金で禄を食む身であろう。真実に基づかない日本が受けた汚名に対しては、心血を注いで反論するのがスジではないか。また、きれいごとをいう米国の友人に対し、戦後、占領中の日本慰安婦に対し、何をしたかを具体的に話し、「まずそれへの謝罪決議をすべきではないか」と詰問すべきではないのか。

実際、日本の外交官がそうした努力をさぼってきたために、米国では日本に対する謝罪要求が行われたのである。

以前このブログで書いたが、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が、その経緯を抉り出している。  

<2007年7月の連邦議会下院での日本非難決議を主唱したマイク・ホンダ議員は審議の過程で第二次大戦後の日本でも占領米軍が日本側に売春施設を開かせたという報道に対し、「日本軍は政策として女性たちを拉致し、セックスを強制したが、米軍は強制連行とはまったく異なる」と強調した>

<同決議案を審議する公聴会の議長を務めたエニ・ファレオマバエンガ議員は「米国も人権侵害は犯してきたが、日本のように軍の政策として強制的に若い女性たちを性の奴隷にしたことはない」と断言していた>

今、朝日の謝罪で、この強制連行はウソとわかったのだから、日本は冤罪に基づく同決議の撤回を米国議会に求めるべきである。議会側は「韓国慰安婦の証言がある」と反論しているようだが、それも覆すだけの材料がある。

中井氏の言うように、女性の尊厳を重んじ、戦前の慰安婦制度に対する反省の姿勢を示すのはいい。だが、その上で「強制連行はしていない、そして女性の人権蹂躙については、米国や韓国は相当にひどい事実があるのだから、反省や謝罪をしてもらいたいと訴えていくべきだろう。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年11月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。

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