日本の活路は“アジアシフト”しかない

田村 耕太郎

最も愛され、必要とされ、戦いやすい、場所で戦え!

地方創生もアジアの力使え!
勝負がある程度見えていることもあり、こちらシンガポールではもうあまり話題にならないが、日本では解散総選挙が迫る。争点はアベノミクスとなるようだが、アジアの金融ハブシンガポールではアベノミクスへの評価は、期待が大きかったので、今は厳しい。(ただ投資家たちは、日本経済に悲観的な割に、日本株にはいまだかってないほど、短期で楽観的であるが)

私は人口が減り高齢化していく日本の活路はアジアの力を取り入れていくことしかないと思う。安倍政権の看板政策である「地方創生」にしても、日本の中で「都市」と「地方」が時代錯誤的に、現代版“列島改造論”のように、人口の奪い合いをしているようでは何の打開策にもならないと思う。衰退する地方こそ、観光から企業誘致まで最も近くて活力のあるアジアの力を利用すべきだろう。


このアジアというチャンスと課題にあふれる場所について、できるだけ正確な最新事情を知ってほしいとの思いでこの本


を書かせてもらった。

私はこの本で「日本がダメ」で「シンガポールを初めとするアジアがいい」とか、その逆を語るつもりもない。そんな議論は正しいか間違いかの前に、あんまり意味がないと思う。私が世界を歩き世界で色んな人と学び働いてみて思うのは、世界には完全無欠なパラダイスはないということ。世界を歩き、歴史を学んでみて思うのは、国家や地域の興亡はその時代にその国や地域の在り方やその住人の特性が合っているかどうかだけではないかということ。

日本もシンガポールもパラダイスではない
私が、この本を書いた理由は「日本にこれから起こるであろうことをできるだけ正確に知ってもらいたい」からだ。これは誰を責めるわけでもないし、誰のせいでもないと思う。民主国家なのだから国民みなの決断の集積だと思う。そして「アジアという、今の時代にあった場所で、アジアの時代の勢いを感じながら、自分の成長させることには意義があるでないか」ということを訴えたい。

今住んでいるシンガポールには素晴らしい点がたくさんあり敬意を払っているが、課題もたくさんある。学生時代にあこがれて住んでみたパリもロンドンもボストンもロサンゼルスもニューヨークもそうだ。もちろん、愛する故郷鳥取も長く住んだ東京も大阪もいろいろある。住んだことはないが訪ねていった多くの町でもいろんな面をみた。

やがて世界中の各地域の一人当たりの豊かさは同じような値に収斂してくると思う。もちろん格差があるので、地域の平均にどれだけ意味があるかは議論が分かれるところだが、傾向としては世界の地域ごとの豊かさの差は減っていくのではないか?この見解については、本文中に紹介した各地域の一人当たりGDPの趨勢チャートをみれば説得力を感じてもらえると思う。

日本の豊かさは持続しない
その根拠は、人間の能力や生産性に長期的に差はないと私は思うからだ。だから日本が今のように一人当たりで世界平均の4倍も5倍も豊かという時代は続かないと思う。過去2000年の世界経済を振り返れば、1800年以上、日本の一人当たりGDPは世界平均よりやや低かったのだ。日本は世界的に見てそう豊かな国ではなかったのだ。もし長期的に国家の経済の趨勢に相関するのは値があるとしたら、それは人口動態だけだと思う。

インドとASEAN(東南アジア諸国連合10ヶ国)で約20億人の人口で平均年齢が20歳台という、その人口動態を武器にアジアは、過去2000年のうち9割以上の時代世界GDPの過半を占めていたように、世界のGDPの過半を創り出していくだろう。この熱気と勢いを感じその中に、一瞬でも身を置かない手はないと思う。

日本は確実に衰退過程にあると思うが、それも永遠のものではなく、やがて何らかのやり方で盛り返していくのかもしれない。でもそれはかなりの時間がかかると思う。時間をかけて作り上げてきた課題が山積なのでそれが簡単に解決できるはずはないと思うからだ。その間に世界各地域の生産性や競争力が上がるだろうから、グローバルにつながった世界で、日本が課題を解決しながら世界より大きな豊かさを維持することは難しいと思う。

その中で、少なくとも私の子供や孫の時代は、色んな意味で、日本で教育を受けることが不利に働くと私は判断して家族とともにシンガポールに移った。変化の時代に、日本以外でも通用する力をつけるには世界に出て多様性に慣れながら多言語で自らの探求心を突き詰めていくような教育に若いうちから触れることが重要だと思っている。

アジアの時代は確実に来る、というか、もう来ているので、そういう場に「自分も家族」も置いて成長できればと思っている。やがてアジアの時代もアフリカの時代にとってかわられるのかもしれないが、少なくともこの本を読んでくださる皆さんが人生を謳歌される間は世界の成長センターは日本の裏庭ともいえるロケーションにあるアジアだと思う。

日本の強運は、国家としては人口減少と高齢化と負担増で衰退が予想されるが、その近くに巨大な経済成長センターを抱えている点。そして、日本はそこでどんな国より敬愛され尊敬されている。

アメリカよりアジアの理由
この本でも書いたが、おおまかにいってこれからの世界のチャンスは二か所に絞られると思う。アジアとアメリカだ。アメリカ全体・全国民がおしなべてすごいというわけではなく、地域によってかなりばらつきがでるが、国内にイノベーションのメジャーリーグを多様な場所に多様な形で保有し、世界最大最高レベルの金融市場とメディアを持ち、ハリウッドやファッション等圧倒的なソフトパワーを持ち、グローバル大企業も押しなべて世界一強く、なんといっても先進国で唯一人口をどんどん増やしているのがアメリカという国だ。だから製造業も回帰している。世界最高レベルの高等教育と研究機関を多数保有する。

アメリカもとても魅力的な市場だがここで日本人や日本企業が勝つのは相当厳しいと思う。細かく見ればケースバイケースだが、ざっくりいえば、アメリカで勝てる日本人になるには、幼児から世界に出てもまれた人材でないと勝てないと思う。名門ビジネススクールを出たくらいではまともなチャンスはないだろう。もちろん、天才的な才能があれば別だが、”何千万人に1人”っていった感じの天才的な人材がすでに世界からガンガン集結しているので才能だけで勝つのはさらに難しくなっている。言葉や切り込み方で全く障害を感じないくらいの育ち方をして、それプラスなんからの才能がないと勝負にならないと思う。もちろんいいチームが組めれば勝負にはなるかもしれないが、いい人材と組めるかどうかも幼児くらいから外に出ていないと楽ではないと思う。あくまでざっくりな印象でもちろんケースバイケースで例外(ラーメンとか超一流プロ野球選手とか)はあると思うが、私の印象ではアメリカのビジネス界(金融やスタートアップでは特に)では「日本人は個人では弱く、結局使えない」との烙印を押されているような気がするのだ。というか関心はもうないくらい非常に薄いと思う。ということで、日本人がアジアを目指すのは正解だと思う

アジアと日本の相性の良さ!
アジアでは日本、日本企業、日本人への尊敬とあこがれは半端ではないほどの強さである。別項でも紹介しているが、外務省が2014年に行った東南アジアの対日世論についての調査によれば、ASEAN加盟7か国で日本に対して肯定的なイメージを持つ人がなんと“9割”を超えたのだ。最も信頼できる国として、米国を引き離して日本がトップであり、ASEANのパートナーとしても、中国を引き離して日本が首位である。日本の国際貢献にや積極平和主義に対しても9割の人々が以上が評価してくれている。

アンケートで日本に好感を持たない国民として韓国と中国の人々がよく出てくるが、彼らに言わせると「大っぴらに日本が好きとは言えない状態にあるだけ」で「一度日本に行ったことのある人はたいていが日本のとりこになって帰ってくる」という。

そして近い。東京からアメリカ西海岸までは飛行機で約10時間、ニューヨークまでは約13時間かかる。東京都の時差も東海岸から西海岸まで13時間~16時間ほどある。一方東京から北京は約4時間、上海まで約3時間、香港まで約5時間、マニラまで約4時間半、ホーチミンまで約6時間、シンガポールまで約6時間半である。ミャンマーやニューデリーまでも約8時間半である。何よりアジアへの行き来が北米に比べて楽なのは、アジアへは、北米に比べて時差が少ない。北京、上海、マニラ、ホーチミン、シンガポールまででも時差は1時間。ニューデリーまででも3時間半である。

文化も近い。アジアというまとまった文化はないという学者もいるが、シンガポールに住んで、東南アジアやインドや東アジアを行き来していると、北米よりずっと人付き合いに似ているところがあると感じる。それは例えば、仕事をやる前に食事や飲み会で人間関係を作っておけば、物事がはるかに早く柔軟に進めていくことができる点。権力が分散していて民主的なガバナンスが効いている北米型組織より、村社会で親分や長のような人物が組織を仕切っているケースが多いと思われる点である。

アジア各国は、米が主食である点だけでも、味付けが全然各国によって違うが、日本人としてほっとすると思う。世界の共通語である英語も、皆アクセントが自国語なまりで癖がある点も、北米のようにネイティブ英語に圧倒されることはなく、親近感を持って日本語なまりの英語を堂々と話せる点もアジアで気が楽な点だという人が多い。

本格的にアジアに向き合え
日本、韓国、台湾以外のアジアの国々は製造業が勃興している時期にあり、日本の技術を欲している。アメリカにも製造業はあるが、今の日本の技術を欲するような企業はアジアほど多くはないと思う。東南アジアの製造業は日本でいう高度成長期の少し前のような段階にあり、日本が「そろそろ卒業しようかな」、または「もう卒業した」技術が今から必要になる。中国の製造業も日本の技術が欲しいところだ。

私はアジアの方が日本人が勝負しやすいと思う。これだけ好感をもたれ、これだけ必要とされ、これだけ日本の色んなものが通用する巨大市場は他にないと思う。ただし、今すぐ出ていくならのことだ。これが2,3年様子見したら中韓や欧米の草刈り場になって入り込む余地はなくなるだろう。

また、いくら本気であっても日本企業はその経営スタイルをそのまま持ち込んではいけないと思う。例えば、アジアの人材を獲得し、活用できるように、きちんと責任と権限を与え、他の外国企業に負けない待遇で処し、成果によってポジションもどんどんあげていくように日本的な人事も変えないと勝負できないと思う。

私の仮説が正しいかどうかはやってみないとわからないが、アジアにいて日々これは正しい決断であったとの確信が高まっているし、結果にかかわらず自分の中の優先順位にとって非常に納得がいく決断である。

アジアの課題もチャンスもこの本では語りたい。日本を取り巻く環境は厳しいが、日本は相変わらず運が強いなあと思うのは、日本のそばには世界の成長エンジンであるアジアがあるということ。この本で少しでもアジアの雰囲気を感じてもらえばありがたい。そしてアジアの活力をどんな形でも結構なので、アジアの課題も知りながら、皆さんが取り入れてくださればこれ以上にありがたいことはない。