原発が動けば日本人の経済マインドも変わる --- 岡本 裕明

アゴラ

風が吹けば桶屋が儲かる、のシナリオを私が今、最も当てはめたいのが、「原発が動けば…」かもしれません。

九州川内原発の再稼働を皮切りに来年はいくつかの再稼働があるのかもしれません。国民や近隣住民の理解を得るのは実に大変な作業でありますが、少しずつでも再稼働が進むようになると電力燃料への依存が大きく変わります。特にLNGは震災後、その切り札として注目を浴びていたこともあり、日本が長期契約するLNGの価格は国際価格に比べて高いとされていました。


それは相対契約の中で足元を見られたこともあるでしょうが、当時はやむを得なかったし、国内で原発の再稼働へのハードルが何段も上がった中でその条件を満たすまでの時間的経過が必要だったことは長期安定供給を最大の目的とする電力会社にとっては飲まざるを得ない条件でありました。

ところが、再稼働もいよいよ現実のものになると交渉する際、足元を見られることは少なくなります。むしろ、日本はLNGが高ければ石炭もある、安くなりつつある石油に太陽光も増え、と選択肢は広がる一方です。つまり、交渉の立場が逆転しつつあるとみて良いかと思います。

事実、LNGの調達価格はじわりじわりと下がってきており、現在は単位当たり15.7ドルとなっています。これは韓国の調達価格16ドル程度をついに下回る水準となっています。更に電力会社の主力の長期契約に対してスポットでは11ドル程度とアメリカのシェールが日本に輸出される際のターゲット価格とほぼ同じまで下落しています。理由は国内の電力需要が落ちており、LNGの在庫でいっぱいなのです。電力会社は喉から手が出るほど欲しいLNGのスポットも在庫過多で購入できず、価格の下落に拍車がかかるというシナリオになっています。今後、石油価格の下落の相場も踏まえれば長期の契約も来春には更に15-20%程度の下落も期待できる水準となるのです。

東電は更にコストカットを進め、電力の再値上げはしない方向で乗り切るとみられていますが、その背中を押してくれているのが燃料代の下落であることは間違いないでしょう(ただ為替の問題がありますが)。これは物価高で苦しむ東電管内の人には「ほっと一息」となるはずです。

ところでカナダ北部キットマットからLNGを日本などアジア各国に出すプロジェクトには日本の商社を含め、多くの資金が投じられています。しかし、環境問題等でそのプロジェクトの進捗は遅れています。カナダやBC州でも政治の世界では大きな課題となっていますが、決して順調に進んでいるとは言えません。当初は2015-6年にも供給開始という触れ込みだったと思いますが、今は2020年代となりつつあります。「代」ですから10年の振れ幅があるともいえ、気の長い話になりつつあります。

カナダは石油産出国でアメリカが最大のお客様でした。アメリカにつながるパイプラインを通じてカナダ、特にアルバータ州は潤い続け、住宅は飛ぶように売れ、高級車が溢れます。当社が経営するマリーナにはアルバータのビジネスマンが所有するボートが数艘停泊していますが、年に何度かしか動かない数千万円するクルーザーは街の風景に溶け込んでいます。私が長年取引してきたバンクーバーのゼネコンは「バンクーバーより儲かるアルバータ」と言って主力部隊をアルバータに持って行き、その旺盛な建築需要に対応していました。

今後アメリカ向けはシェールの影響も有り、カナダからの石油の購入は増えないかもしれません。原油相場も崩れている中、案外影響が出るのはオイルサンドという高コストのカナダ産石油である気がします。資源大国カナダであるがゆえに環境への配慮は年々厳しくなり、住民のボイスは政治家の声をもかき消してしまいます。

LNGの需要は日本、韓国で世界の5割を占めると言われる中で両国が原発稼働への動きを見せ始めれば相場は先物を中心に下落するものです。とすれば今日のタイトルである「風が吹けば桶屋が儲かる」の行き着くところは「原発が動けば貿易赤字は大幅改善」としておきましょう。

これは世の中は一方的に悪くなったり良くなったりするものではなく、あるきっかけで突然回復したりすることがあるということをお伝えしたかったのです。日本国内では無謀ともいえるエキストリーム論が公然と語られ、多くの人がその究極の事態が本当に起こるのではないかと信じたりするものです。日本国債暴落論とか円は果てしなく売られるとかいった極論は出版社や編集者の「本や雑誌が売れるためのテクニック」なのにそのタイトルだけが独り歩きしている感すらあります。

貿易赤字の改善は経済のトーンの改善のみならず、日本人のマインドすら変えてくれるわけでそうなってくれれば本当の「風が吹けば桶屋が儲かる」の図式が実現することになるのでしょう。これは実にウェルカムなことではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年12月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。