日本の「おいしい食べ物」が心配だ --- 岡本 裕明

アゴラ

「上手いものが喰いたい!」と言われてお父さんが家族の望みを叶えるために連れて行くところはどこでしょうか?

星がつくレストランだったら嬉しいのですが、クリスマスと盆と正月と誕生日が全部重なっても行けるかどうか、でしょうか? 普通の家庭なら駅前のレストランやファミレスというところも多いのではないでしょうか。


日本人はグルメだと言われています。いや、確かにそうだと思うのですが、最近、街角料理挑戦番組を見ていて料理が全くできない人が増えたことに改めて戸惑いを感じてしまいます。日本人がグルメだというのは与えられたものを食べることに成り代わってしまい、食を分析し、客観的に考察することはもはや出来ないのかもしれない、と感じることもしばしばです。知り合いの若者が「これ、旨いっす!」といたく感動しているのはマヨネーズいっぱいとか化学調味料で美味しく見せかけているものだったりする訳で「あぁ、この子たちはジャンクフードで育ったな」というのがある程度分かってしまいます。

時代の変化と共に食に対する価値観もすっかり変わってしまいました。まず、西洋の食文化の一層の浸透、低価格化に伴う品質の変化、コンビニが生活の中に入り込み、コンビニ商品が食のスタンダードになった点、中食を含めお手軽フードが街にあふれ腹はいっぱい状態であること、酒を飲まなくなったため肴という観点が薄くなっていることなど、いろいろ理由はあるかと思います。

私が日本に行ったらどんな店に行きたいか、と言われればまずは小料理屋。カウンターだけの小さな店で割烹着を着た「お母さん」が大皿に煮物や酒の肴を用意していて酒と共に店の雰囲気を楽しむこと。あるいは日本蕎麦屋で冷酒に卵焼きに塩辛、冷やしトマトをつまみ、最後、ざるそばでさっとしめる、という感じでしょうか?

時代と共に舌の感性も変わる食文化でありますが、日本の外食産業に大きな変革時期が到来しているように思えます。それはマクドナルドなどに代表されるファーストフードの退化でしょうか? 日経には「迷走する小僧寿し」の記事が組まれ、持ち帰り寿司店からお手軽で利益率の高いラーメン店に鞍替えするその経営方針に大きな疑問符がつけられています。

回転すしに行けばファミリーが楽しめるよう、回っているものがすしだけでなく、うどん、ラーメンをはじめ、バラエティに富み、昔のデパートの上層階にあった「お好み食堂」の趣旨を彷彿とさせます(「お好み食堂」に感慨ひとしおなのは多分40~50歳から上ぐらいの層だけかもしれませんね)。

ファーストフードの経営ポリシーは何か、といえば、高回転率、効率経営であって飲食店でありながら飲食の本質をどこまで追及しているのか、時としてふと疑問に思えることもしばしばです。その最たるものが4、5年ぐらい前まで派手に繰り広げられていた価格戦争でデフレは外食から、とも揶揄されたぐらいであります。

その急先鋒であった吉野家は300円の牛丼を一気に80円も上げることを発表しました。26.7%も一気に上げるその筋書きは今までの我慢が一気に破裂したと表現してもよいと思います。それでも牛丼はファーストフードの中では一番安い部類で380円では駅の立ち食いの天ぷらうどんも食べられないぐらいの金額であります。前述の小僧寿しがラーメン屋をやりたいと思うのは極めて低い原価ながら800円の単価が取れるその商売にうまみがあると感じているからでありますが、そのうまみとは料理ではなく、マネーのうまみである点にグルメのはずの日本人がこれでよいのだろうか、と首をかしげてしまいます。

居酒屋に行けばセントラルキッチンから持ってきた食材を盛り合わせるだけといった小手先のビジネスが多く、私は最近ではチェーンは信じられず、個人経営やこじんまりと長年やっている店に信頼感を持つようになっています。

今や、食事のオプションは片手では数えられないほど増え、時と場所も選ばなくなりました。その中で家庭でもプロの味、あるいは簡単調理でレストランと同等レベルのものがお手軽に食べられる時代となり、価格の高いレストランに行く理由が以前ほどではなくなってきています。一方、繁華街に行けばつぶれた後のレストランにまた新たなレストランが入居する繰り返しで「一発当てれば儲かる」という神話がまだ神通力のように残っているようです。

私の会計士はレストランの経営者については会計料金が「前払い」でお願いしているそうです。理由はとりっぱぐれが多いそうで、そう考えればレストラン経営に携われば味よりお金が先に来てしまうともとれ、いよいよもってグルメな日本人も怪しくなってしまいます。心配事が絶えない私でありますが、おいしいものがある日本だけは絶対に失ってもらいたくないものです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年12月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。