試練に立つアベノミクス

大西 宏

都合のいい数字だけを並べて選挙で勝利した安倍内閣ですが、あくまで選挙向けの戦術だったのでしょうか。ニュースZEROでの村井キャスターとのやりとりで、イヤホンを外してしまい、質問を無視して、一方的にまくしたてた姿にその焦りを感じた人は多いと思います。


そのアベノミクスへの第一弾の洗礼だったのが、GDP第二次速報値で、第一次速報値よりもさらに下方修正され、景気が減速状態にあることを示したことでした。さらに第二弾が、本日発表された11月の貿易統計速報です。日経などは、輸出額の増加や貿易赤字の縮小を取り上げ、差し障りの無い記事を書いていますが、要は円安効果によって貿易量が増えたかどうかです。でなければ輸出企業も活性化してきません。
11月の貿易赤字8919億円 輸出額は前年同月比4.9%増  :日本経済新聞

その輸出量では、9月、10月と伸びていたのですが、11月は対前年で-1.7%と再び減少に転じてしまっています。

日本が経済力を高めるために行うべきことはふたつしかありません。国際競争力を高めるために基礎体力を強化すること、もうひとつは技術やビジネスのイノベーションにむかってチャレンジしようとする流れをつくることです。つまり潜在成長力を高めることしかないのです。

いくら紙幣を刷っても、円安を誘導しても、それらは一部の産業の栄養ドリンクになるだけで、体質改善や体質強化にはならず、むしろ国内産業の調達コストをあげるだけで、結局は効果が相殺されてしまいます。
それがアベノミクス第三の矢のはずだったのですが、今回の選挙で足場を固めた安倍内閣がほんとうに痛みを覚悟でとりくむのでしょうか。海外が注視しているのもその1点だと感じます。
「アベノミクス2.0」始動へ、潜在成長力の引き上げが課題 – Bloomberg

日本の体質改善の大きな鍵になってくるのが、もちろん岩盤規制をどう打ち破り、ビジネスチャンスをどう広げ、技術やビジネスのイノベーションを促進するのかと、時代の変化、産業構造の変化が激しいにもかかわらず、雇用制度が硬直してしまっている現状から、よりしなやかに、変化に対応できるやわらかな制度にかえていくことにつきるのでしょう。

しかし、前者は霞ヶ関の壁が高く聳えており、薬事法改定で、規制緩和の看板で規制強化してしまった前科があります。また雇用制度の問題は、雇用する側と雇用される側のWIN-WINの新しい雇用システムづくりではなく、対立を生む、いずれか一方だけの立場からの議論しかない現状では解決しそうにありません。

雇用に関しては、ほんらいは、「一社」での「終身雇用」ではなく、安心して転職でき、「複数社」から「終身雇用」が保証される制度や仕組みづくりを目指すべきなのでしょう。北欧のように、雇用の流動性と失業保険、職業訓練を組み合わせ北欧型の制度(フレキシキュリティ)をそのままを導入するには、制度だけでなく、労働組合の役割も変わっていく必要があり、ハードルが高いかもしれないのですが、いずれにしても避けて通れない議論です。
フレキシキュリティ – Wikipedia

課題は明確で、その日本の潜在成長力を高める本質に切り込むアベノミクス2.0を実行できるのかどうかにかかっています。2月には10~12月期のGDP速報値が発表されますが、あまりいい数字は期待できそうになく、世の中の風は安倍政権の逆風になってきそうです。いくら選挙に勝ったとしても、その正念場に安倍内閣が立っていることだけは間違いありません。