福田恆存「当用憲法論」の卓見 --- 井本 省吾

2014年12月28日 13:06

前回のブログで引用した池田信夫氏のブログ「安倍晋三氏のユートピア」が、福田恆存氏の「当用憲法論」を引用していたので、40数年ぶりに読み返してみた(初出は1965年=雑誌「潮」8月号)。
 


福田氏は「当用憲法論」を著した目的を次のように書いている。

<(日本の一般大衆が)平和憲法の美名の陰に利己心、怠惰の温床を作り、そこに眠りこけようとするのを防がなければならない>
 
利己心、怠惰とは何を指すのか。本来、自国の防衛、安全保障は自ら担わなければならないのに、米国に依存しようとする態度だ。それだけではない。憲法では軍隊放棄をうたっていながら、自衛隊の存在を認める姿勢にある。
 
<(世論調査によると)自衛隊すら認められぬ筈の現行憲法の下で、しかも自衛隊を現状のまま存置したいといふのが圧倒的大多数の世論であり、完全な(自衛隊)廃止論者は一割にも満たない。しかもその自衛隊を日の当る場所に出すための九条改正には反対という訳ですが、これは自衛隊を(米国の)第七艦隊と同じく傭兵と考え、自分の命を賭けてまで国内、或は国際社会の平和を守ろうとする意思のないことを物語るものではないでせうか>
 
<これでは、吾々はアメリカの妾になり、陰でこっそり平和憲法と自衛隊という男妾を持っている様なものであります>
 
急所を突く厳しい指摘だが、福田氏はそれを声高に非難しているのではない。冷静に人間の心理を読み取っているにすぎない。
  
<手取り早く言へば、自国の事どころか、自分の事しか考へていないといふ事で、……人情の自然と言へませう。(だが)それだけでは困る>
 
なぜ困るのか。右派の福田氏だから「愛国心が足りない」と難詰するかと思われようが、「私は何も愛国心や愛国の情から困ると言っているのではない」と言う。

<人情の自然だけで国際社会は乗り切れぬばかりでなく、それでは自国の利益にも、自己の生命の安全にも望ましからぬ結果を招くであらうと言ひたいのです>
 
前回記したように、九条で軍隊の放棄をうたいながら、自衛隊を温存する国民心理は欺瞞、偽善であり、不健全な精神だからだ。その後ろめたさを感じている日本人も少なくない。

<(平和憲法の理想と)自衛隊の必要から生じる(国民の)悩みは、偽善と自己欺瞞の、日和見主義と敗北主義の、利己心と無責任の、一口で言へば人格喪失といふ道徳的退廃の温床でしかなく、それは国民を敵国の奴隷にも育て上げませうし、また国内の独裁者に対する従順な羊の群にも育て上げるでせう。アジアの指導者になるなど思ひも寄らぬ白昼夢に過ぎますまい>
 
卓見である。改めて読み返して胸に迫るものがある。

池田信夫氏は「米国の属国化と言われようと、平和で豊かな属国ならいいではないか」と言うが、米国は「奴隷根性の国民」が不要になれば、さっさと日本から去り、中国に日本を売るかも知れない。「羊の群れ」はそれに抵抗できず、チベットやウィグル自治区の実態に見られるように、中国の属国となれば今よりはるかに厳しい「奴隷状態の生活」を強いられる危険が大きい。

むろん今後5、6年程度の近未来ではその危惧は杞憂にすぎない。だが、10年、20年、30年を展望すれば、取り越し苦労とは言い切れない。そして、憲法とはそれくらい先を見越して改正するものだろう。10年などアッと言う間だが、10年で日本の国際環境が大変化する可能性も捨てきれない。

今回の総選挙で自民党が惨敗した沖縄には、中国勢力が忍び寄るように浸透していると言われる。「自分の事しか考えない羊の群れ」は、奴隷となる危険に対して無防備なのではないだろうか。

池田氏は最新のブログ「吉田レジームと岸レジーム」の中で、こう書いている。

<かつてのソ連・東欧ブロックは現実的な脅威だったが、それに比べると今の中国は軍事力も国際的影響力もはるかに小さい>

現在の南シナ海、東シナ海、尖閣領域への浸透を見ていて、それほど中国の脅威を過少評価できるだろうか。

憲法は長期間にわたって、日本人の生活を律し、独立自尊の精神を育み、敵国の不当な浸透や独裁者の支配を阻むものでなければならない。福田氏はこう書いている。

<私は欽定憲法の復活を希望しているのではない。私にとって大事なのは欽定憲法そのものではなく、日本人の憲法意識なのであります>


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年12月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。

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