原子力規制の混迷がもたらす日本経済の危機【言論アリーナ報告】

2015年02月06日 00:07

GEPR編集部

アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」は1月28日、「原子力規制のもたらす日本経済の危機」を放送した。再稼働をめぐり、新規制基準の適合性審査が遅れて、原発が稼働できない状況になっている。問題の分析と改善策を有識者が語り合った。

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出演は諸葛宗男氏(パブリック・アウトリーチ上席研究員)、澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長)の2人。池田信夫氏(アゴラ研究所所長)が司会を務めた。

番組では、原子力規制の現場で混乱が起こり、2年半が経過しても新規制基準の適合性審査について完了のメドが九州電力川内原発の2基しか立たないことを指摘した。それを考えると、48基の原発が稼働するまでに20年以上の時間がかかることになりかねない。それを改善するために、権限や根拠のあいまいな行政活動を文書や法律による明確化すること、そして炉規制法の改正が必要と3人は一致した。主な発言は次の通り。

55兆円の負担が現実に

池田・今、何が起こっているのかを振り返ってみましょう。14年で原発の代替の燃料費は3兆6000億円かかっています。毎年GDPの0.7%弱の巨額で、主に天然ガスです。昨年末から原油価格は下がり、天然ガスも多少は安くなりましたが、それでも日本向けの輸出分だけが高くなっています。輸出国に足下を見られて売られているのです。

諸葛・この4年で12.7兆円の燃料費が国外に流失しました。適合性の審査が始まって2年半で、完了したのはゼロ。仮に48基の審査が終わるまで、20年かかったら、55兆円の燃料費が流失します。産業界には深刻な影響があります。アベノミクスで賃上げが期待されていますが、産業界ではこれまでの電力料金値上げがコストの2%に達しています。

池田・図表1がこれまでの経緯ですが、誰も明確な決定がなく法律の根拠のない行政活動が行われてきました。最後の田中メモというのは規制委員会の田中俊一委員長の私的なメモで、公文書ではありません。
図表1

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田中私案というメモが出てきました。これは新規制基準との関係、また夏の電力不足で稼働させた大飯原発を新規制基準の施行の後も、稼働させる意図で作られたものです。ここで新規制基準の適合が稼働の条件になりました。次のように書いてあります。

「新たな規制の導入の際には、基準への適合を求めるまでに一定の施行期間を置くのを基本とする。ただし、規制の基準の内容が決まってから施行までが短期間である場合は、規制の基準を満たしているかどうかの判断を、事業者が次に施設の運転を開始するまでに行うこととする。施設が継続的に運転を行っている場合は、定期点検に入った段階で求める。」

つまり審査に適合しないと動かしちゃダメだといっています。これまでは動かしながら改造をしてきたわけです。新規制基準に適合させて、稼働する必然性はまったくないわけです。またこうしたメモは法治国家では一種の「怪文書」と同じ。法的な拘束力は持たないのに、これで規制が動いている。

澤・これは役人言葉で「詰まっていない」文章。法律上の問題がある文章です。確かバックフィット(法律の遡及適用)をどうするか、負担の方法が明確ではないため、そこを詰めたら矛盾になってしまうから、こうした私的のメモのままにしたのでしょう。

しかし規制委が国会に提出した報告では、この田中メモは、委員会のこ正式決定のように書いてあります。

甘かった規制委の見通し

池田・米国では、行政による企業の損害が生じたら、株主代表訴訟か、企業による行政訴訟が起こっているでしょう。なぜ、こんなことになったのでしょうか。

諸葛・おそらく、半年もあれば終わると規制委員会も、高をくくっていたのでしょう。そしておそらく電力会社もそう思っていたでしょう。

並行審査と直列審査があります。(図表2)これまでは並行して行ってきたのですが、今回、規制基準を見直すということで、設置許可、工事認可、保安規定を順にやることになりました。直列審査といいます。(図表3)これは当然時間がかかります。

図表2

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図表3

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その結果、大変な時間がかかっているのです。規制委員は学者ですから、実務を分からなかったのでしょう。ここまで見通しがずれれば、民間企業ならトップは引責辞任です。(図表4)(図表5)

図表4

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図表5

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以前は、工事認可、保安規定は、簡単な審査ですみました。今回は法改正、政令、省令、規則の改正が176本にもなります。そのために、その対応が大変で、時間ばかりがすぎていきます。

澤・規制とは「止めること」と、規制委員会も、つくった民主党の政治家も考えていたようです。しかし、そうではない。米国のNuclear Regulatory Commission (NRC) の「Regulatory」は規制と訳されていますが、語感は「制度を整える」という意味です。車に例えるならばNRCはブレーキの機能を持つのではなく、車輪を4つにする、安全なブレーキを整えさせ、安全に運転させるためのルールをつくり、実行させる機関です。勘違いがあるようです。

多くの人が気づいていませんが、安倍政権は歴代自民党政権の中で一番、原子力に消極的です。いろんな政治問題を抱えていますが、政治的なアセットを減らしたくないために、リスクをとって原子力には向き合っていません。

また規制手続きが煩雑なために、電力会社が規制に合えばいいと思っているようす。新基準に適合させた後で、そこから安全性の確保の努力が始まるはずです。ところが政府は「世界で一番厳しい安全基準」といって、原子力規制委員会が安全性を確保した原発から再稼働すると言っています。そして電力会社も「新適合基準に合致したから安全」と、地元を説得する。これは新しい「安全神話」をつくりかねません。安全性は改善を重ねることが必要。もう少し事業者に責任を委ねてもいいでしょう。(図表5)

図表5

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法改正と国会での審議を

池田・問題が多すぎますが、どうすればいいのでしょうか。

澤・回り道になるかもしれませんが、安全性を確保する炉規制法を改正して、たくさん問題のある事の見えた制度を整えるべきでしょう。また原子力規制委員会設置法は今年、施行3年で、問題がある場合に見直しをすることが法律上書き込まれています。原子力規制について、一度、国会でじっくり審議をしていいかもしれません。

諸葛・法改正は賛成です。しかし、それに加えて、運用の問題がかなりあります。例えば、今、審査をネットで公開しているのです。規制委員会、規制庁側はパワーポイントで説明して、議論をした気になっている。ところがそれを議事録で読むと、何を言っているのか分からない。主語述語がはっきりしない。それを書類にして申請に使おうとしても、何を書いていいのかさらに分からないのです。パフォーマンスをする委員もいる。対話を深め、決定を文章かするだけでも、状況は変わるでしょう。

澤・その通りで、混乱しているという批判が多いのです。透明化することで、規制を受ける事業者も予見可能性が高まります。今のような恣意性の強い行政をやっていると、訴訟リスク、そして、右、左、双方からの政治の介入を招きかねないのです。そして、規制の意思決定が不透明なんです。

規制委員が担当を分け、実務をやっていますが、これもおかしい。委員一人に仕事が集中して何もできなくなっています。米国では規制委員会と規制機関は対峙する関係にあって、規制委員会は、規制機関から判断を求められたことを決める、意思決定機関です。日本の規制委員会は、米国のNRCをモデルにしましたが、誰もこんなことになるとは想定していなかったでしょう。

NRCは、規制の原則を明確に示しています。(図表7)ところが、日本の規制委員会はざっくりとしか判断指針を出していない(図表8)。そのために、規制を受ける側が、自分の申請がどちらに倒れるか、読み取れないのです。何をするか、はっきり道筋を示してほしいです。

図表7

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図表8

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池田・原子力問題で、金より命とすぐ批判する人がいるのですが、私はどんな考えを持ってもいいと思います。しかし、それは民主的な形で決定されなければなりません。その議論がまったくなされていないのが問題です。私は、一回国会で法改正、規制のあり方を議論した方がいいと思います。

【ニコ生の機能を活かし、アンケートを行った。回答総数は不明だが原子炉等規制法改正の賛否で、87 .2%の人が賛成と答えた。】

(構成・石井孝明 ジャーナリスト)

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