主権国家が終わり「世界内戦」が始まる

2015年03月20日 12:31
正戦と内戦 カール・シュミットの国際秩序思想

戦後70年を総括するとき、あの戦争が<侵略>だったのかという問題ばかりが論じられるのは不幸なことだ。それは国際法的には自明だが、大した意味はない。<侵略>は戦争の敗者を罰するためにつくられた政治的概念だからだ。

第1次大戦で戦争責任を一方的に負わされたドイツ人は憤り、カール・シュミットは「勝者の秩序」としての国際連盟の正統性に疑問を抱く。それは「法の支配」の形式をとるが、国際法に法の支配は存在しないので、その実態は戦勝国による占領という現状維持である。


これを正統化する国家主権の概念にも、シュミットは疑問を抱く。国際連盟を構成する国家は自律的でも同質的でもないので、その秩序は脆弱だった。それは自由主義的な普遍性を建て前にしているが、実態は国際法と称する戦勝国の論理で各国に干渉する間接支配の体制であり、ドイツの主権は徹底的に排除されていた。

そしてドイツ革命の失敗後も不安定な政治状況の続くワイマール体制をシュミットは批判し、例外状態について決断する指導者を求めてナチスに入党する。国家の正統性を支えるのは実定法主義による法の支配ではなく、共同体による自然法的な秩序(ノモス)だ、というのがシュミットの批判だったが、そのノモスがいかに正統化されるかは不明だった。

シュミットの「民族的同質性」の思想がヒトラーに悪用された末に、彼はナチスからも追放されるが、その思想がヒトラーを生む危険をはらんでいたことは否定できない。ワイマール体制の「決められない政治」にいらだった彼が法を超える主権者を支持したとき、独裁者の直接支配が生まれた。

戦後のシュミットは学界から追放されたが、英米による経済帝国主義を批判し続けた。彼の死後、世界秩序は国家主権を守るという国連の普遍主義から、アメリカ一極支配による正戦に回帰し、湾岸戦争やイラク戦争などによってアメリカは「世界の主権者」の地位を獲得したかにみえる。

もともと主権国家は、正戦の論理にもとづく宗教戦争をやめ、複数の宗派を認める自由主義の理念でつくられた「中立国家」だったが、今やアメリカは国連決議もなしにイラクに介入する一国主義になり、中立性も実定法主義も放棄してイスラム世界との世界内戦を始めた。

本書はシュミットの思想を初期から晩年に至るまで整理する概説書としてはよく書けているが、最後になって唐突に「新自由主義」が出てきて、グローバル資本主義に奉仕するネオリベ国家を批判して終わるのはいただけない。

むしろ現状は、経済帝国主義(ネグリの<帝国>)が主権国家のコントロールを超えて拡大する一方で、シュミットの指摘したパルチザン(テロリスト)の危険が高まっている。たしかにアメリカが勝手に世界の警察を演じる現状には問題があるが、それがないとアラブやアフリカの無政府状態はさらに拡大するだろう。

それが世界大戦に至る可能性は大きくないが、パルチザンが核兵器を手にすると国家を支配することも可能になるので、主権国家に依存しないガバナンスの建て直しが必要だ。戦後70年の総括も、こうした世界秩序の大きな変化を踏まえて考えたいものだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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