イスラム原理主義というパルチザン

池田 信夫
パルチザンの理論―政治的なものの概念についての中間所見 (ちくま学芸文庫)

戦後70年は幸い戦争がなかったが、今後の70年もそうとは限らない。それは安倍首相の想定しているような国家と国家の戦争ではないかもしれない。

マルクスもエンゲルスも革命の見取図は描いたが、実現できなかった。それを最初に実現したのは、彼らの予想もしなかったロシアだった。そのときレーニンが参考にしたのは、クラウゼヴィッツだった。彼は『戦争論』の膨大な読書ノートをつけ、来たるべき革命が既存の国際秩序を破壊するものであることを学んだ。


西欧諸国の戦争は、ブルジョアが植民地を山分けするゲームにすぎない。レーニンはその偽善を暴き、絶対悪としての帝国主義を破壊する反植民地戦争を宣言した。それはウィーン会議で停戦するようなゲームではなく、最終的に帝国主義を絶滅するまで続く世界革命である。

だからカール・シュミットにとってロシア革命とは、主権国家という枠組を破壊する「非正規の国家」としてのパルチザンの戦争だった。それは既存の戦争のルールを無視して農民反乱を組織し、自由主義的な国際秩序を破壊して、冷戦という新たな宗教戦争を生み出した。

社会主義は終わったが、パルチザンは終わらない。世界各地で、反政府ゲリラの脅威は拡大している。中でもイスラム原理主義のテロは、ヨーロッパの植民地支配で分割されたアラブを統一する正義の戦いだから、妥協も停戦もない。

レーニンやトロツキーに比べると「イスラム国」の指導者バグダーディの知性は劣るが、その教義は社会主義やキリスト教よりはるかに単純で、わかりやすい。それは途上国において救済を低コストで実現する、革命の逆イノベーションなのだ。

そして今やイスラム教徒は19億人とカトリックを超え、2030年代にはキリスト教全体を超えるとも予想される。それは社会主義に代わる新たなパルチザンとして、近代国家を破壊する終わりなき戦争を始めている。