プロ野球界のキューバ危機

新田 哲史

どうも新田です。オリとカープが開幕早々ズッコケて、早くも優勝予想が外れそうなこの頃です。ところで昨年、キューバ政府公認の下、同国選手が日本のプロ野球でプレーすることが解禁されたばかりなんですが、アメリカとキューバが国交正常化に舵を切り始めたことが、日本のプロ野球界を揺さぶっております。DeNAは、グリエルさんがハマに再上陸することなく、弟ともどもどっかに行ってしまいました。


※デスパイネはQVCマリンで勇姿を再び見せるのか
マリンスタジアム
■デスパイネはロッテに帰ってくるのか
かくいう我がロッチもデスパイネさんが4月中旬まで母国でプレーしてから来日する重役出勤の方針を表明されていて5年に1度、日本一になる法則やらで誰かが勝手に言い出した「ゴールデンイヤー」構想が揺らぎ始めております。この前、里崎さんがテレビ解説でも語っていた通り、「本当に戻ってくるのやら」って状況です。それでも戻ってくるんじゃないかと淡い期待をしていたら、なんですかこれは。

【米国はこう見ている】デスパイネも「歓迎」 国交正常化交渉でMLB行きの夢膨らむキューバ選手
アメリカ政府とキューバ政府の国交正常化交渉が進む中、これまで亡命という形でしかメジャーリーグに挑戦できなかったNPB所属のキューバ人選手も、両国間の雪解けを歓迎している。米スポーツ専門局ESPNが「次はキューバの番」との見出しで特集した。・・・(略)・・・ロッテのスラッガー、アルフレド・デスパイネ外野手も「それは歓迎すべきこと。スポーツ界にとってもベストだ。キューバ政府の許可の下、キューバ人選手がアメリカでプレーできるというスポーツ界の道が開けるのだから」と語っている。(4月6日・Full-count)

お、おい。もう心がすっかり渡米しているじゃないですか。一応、11日に合流する予定だそうですが、ロッテに戻ってきても「今季限りでサヨナラ」という匂いがプンプン漂ってきます。

■もともと脆弱だったNPBとキューバの関係
そもそも、日本球界(NPB)とキューバ政府との関係性というのは、非常に危い前提で成り立っていたと思うわけですよ。NPBとMLBではマネーゲームになったら全く勝ち目がないわけですが、アメリカとキューバが断交状態という政治情勢のおかげで、同国のトップ選手が合法的に移籍する道は日本が“独占”できていたわけです。MLBのように一生遊んで暮らせる程の金額は無理でも、NPB球団は韓国の10倍は出せるくらいのマネーパワーはある。選手は亡命のリスクを冒さずにそこそこのお金を稼げ、キューバ政府もマネジメント料で外貨を獲得できたわけです。

おまけにNPB側は交渉力が弱いので足元を見られてきた感があります。キューバとの付き合いが一番長いはずの巨人に送られてきたセペダはピークを過ぎており、ロッテに至っては、挨拶だけのつもりでキューバ入りした球団幹部にいきなりデスパが売り込まれた経緯があったりしたようです(たしか日刊ゲンダイか、夕刊フジがそのあたりの顛末を書いていたと記憶)。

そういう状況で、NPB側にとっては想定外の早さだったと思うのですが、アメリカとキューバが接近してしまって、キューバ選手が合法的にMLBでプレーする可能性が開かれようとしている。マネーパワーでガチンコ対決になれば一気にトップ級の人材がアメリカに流れてしまうのは必至です。

■NPBはJリーグのアジア戦略を見習え
しかしNPBが指を加えているのは勿体ないと思いますよ。長嶋さんが90年代にリナレスにラブコールを送って20年来の外交努力で積み重ねてきたものをすべて持って行かれるのは悔しいじゃないですか。ここはMLBに対して「時間」という先行者利益を活かして何らかの対抗策を打ち出してほしいところ。

そのヒントの一つがJリーグのアジア戦略にあると思います。Jリーグのビジネス・育成モデルは、20年余りでW杯常連国に急成長した実績がアジアのサッカー関係者に非常に注目されていて、Jリーグは日本サッカーと日本企業のプロモーション施策を進めていく中で、アジアの人たちにも育成ノウハウを指導することで、ブランド力に物を言わせてお金とファンをアジアからかっさらうだけのヨーロッパサッカー界とは差別化し、歓迎されています。野球界においても、MLBの国際戦略はまさにヨーロッパサッカーと同じ帝国主義的な考えなので、NPBもJリーグと同じく“共栄圏”構築的な発想で、育成や日本企業のプロモーションと掛け合わせた攻めのビジネス外交をしてもいいと思うんですよ。

もちろん、そのための人材が圧倒的に足りないので商社あたりから人材をヘッドハントすべきとは思うわけですが、まずは対キューバ外交の戦略を描かないとどうしようもない。楽天やソフトバンク、オリのようにグローバルビジネスの感覚のあるオーナーの球団が音頭を取ってもいいんじゃないですかね。

■米側は着々・・・残された時間は少ない
さて、8日の日経新聞の朝刊をみていたらこんな記事が。

米、キューバの「テロ支援国家」指定を近く解除
【ワシントン=吉野直也】オバマ米政権はキューバのテロ支援国家指定を近く解除する方針だ。1月から始まったキューバとの国交正常化交渉を前進させる狙い。指定解除と並行し、10日からパナマで開く米州首脳会議の機会をとらえ、オバマ大統領とキューバのカストロ国家評議会議長との首脳会談を調整する。

さらにNBAにこんな動きも。共同電から。

米プロリーグ初、キューバ訪問へ NBAが育成キャンプ
【ニューヨーク=共同】米プロバスケットボール(NBA)と国際バスケットボール連盟(FIBA)は7日、ハバナで23~26日までキューバの男女の代表チームが参加する育成キャンプを開催すると発表した。AP通信によると、米国のオバマ大統領がキューバとの国交正常化に乗り出したことを受けたもので、米プロスポーツリーグ初のキューバ訪問。スティーブ・ナッシュ氏やディケンベ・ムトンボ氏らが参加する。

こういう国交正常化は文化やスポーツの交流を先行させる可能性が高いわけで。日本球界が攻めの外交策を検討する時間は少ないと思います。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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