黒田総裁発言を読み解く

2015年06月11日 10:06

黒田総裁の発言は不可解、というのが私にとっての第一印象であります。正直、意図がわかりにくいのですが私なりに考えてみたいと思います。

黒田総裁が衆議院財務金融委員会で民主党の前原元代表からの質問に対して「一般的、理論的に言えば、ここから更に実質実効為替レートが円安に振れていくことは普通に考えるとなかなかありそうにない」と答えたのです。これを受けて為替市場は一気に対ドルで2円近く円高に振れてしまったのです。株式市場でも前日の大幅安から反発の動きが反転し最後は日経平均で約50円ほど下げ、先日来の連騰から一転して連日の下げが続く展開となっています。


その為替の勢いを受けたのか、今日のニューヨーク市場では米ドルが主要通貨に対して弱含みとなり「ドル高是正期待」からダウは230ドル以上値上がりしています。ある意味、一夜にしてピクチャーが変わってしまったともいえるのですが、さてこの黒田発言は何だったのか、考えてみたいと思います。

まず、黒田総裁が参照している実効為替レートとは「多数の国の通貨が取引される外国為替市場における通貨の相対的な実力を図る指標。対象となる全ての通貨との二通貨間為替レートを貿易額などに応じてウェート付けして算出したもの。国際決済銀行や各国の中央銀行が集計公表している物価の変動による影響を考慮して調整した数値を実質実効為替レート、調整前の値を名目実効為替レートという。」(デジタル大辞泉より)であります。

その実質実効為替レートは2010年平均を100とした場合、15年4月で72.0となり実に1973年1月の68.9の水準まで逆戻りしているというのです。(日経より)ちなみにピークは95年4月の150.3であります。つまり黒田総裁は円は安すぎるという指標の一つを指しながら為替相場の水準についてコメントしたわけです。

ご承知の通り為替を動かすエレメントは非常に多く、また、絶対評価ではなく、相対評価であります。為替を動かす力は日々刻々と動く地球儀ベースでの政治、経済、社会などすべてであり、それゆえ、為替ディーラーの責任者は3年もやれば睡眠がきちんとれず体がぼろぼろになるとまでと言われるです。

実質実効為替レートの話は以前からちょくちょく持ち出されていました。私もそれは頭に入れています。その上で5月29日のブログで「円の通貨としての価値をそこまで暴落させる必要もない気がします。世の中、一方通行のトレンドはなく、必ず、どこかでピークをつけます。それがどこなのか、これから探り合いが進むのでしょう」と書かせて頂いております。多くの人が今の対ドル水準は行き過ぎかもしれないという気持ちがある中でしたから黒田発言は大きく反応したともいえるのでしょう。

では黒田総裁は何を意図してこの発言をしたかでありますが、私の解釈は放置すればアメリカの利上げタイミングが射程距離に入ってきた中で円が更に5円、10円と動く可能性にくぎを刺したと考えるのが自然かと思います。前にも書きましたがアメリカが利上げするといっても非常に緩やかな上昇が見込まれ、多分、0.1%程度ではないかとみられています。つまりバイアスは確かに利上げですが、実質金利としてはほとんど現在と変わらないし、アメリカの景気がずっと永続的に上昇するわけでもないと考えれば日米金利差が生み出すものはさほどでもないはずです。

とすれば利上げするという囁きで5円も10円も動く相場自体が不健全であり、実態を反映していないともいえます。黒田総裁はマネーの総本山の責任者としてこのあたりに苦言を呈したともいえないでしょうか?

但し、為替のことは為替に聞け、であって、125円がピークと解釈するのもどうかと思います。心理的問題も大きいでしょう。ギリシャ問題の展開次第では為替は大きく動きます。また株価がピークをつけるのはニュースが表面化した時と言われます。例えば決算がよさそうだという噂で買い、発表の事実で売るのです。それと同様ならば人々の心理はアメリカの利上げが実行されるまでドル買いが継続すると考えるのが普通でしょう。市場予想の9月まで最短でもまだ数か月の残されている点は考慮しなくてはいけません。

そこまで考えるともう一つのアプローチとしては中央銀行同士で情報をそれなりに持つ黒田総裁がある予想を立てているとしたらどうでしょう。それは市場がほとんど予期していないアメリカの6月の利上げの公算を考慮しているケースです。6月のFOMCは16-17日開催予定ですから一週間後であり、その対策ということが絶対にあり得ないシナリオではないかもしれません。

FRBが利上げに対して気にしているのはインフレ率だけだと思いますが、自動車業界の爆発的売れ行きなどいびつさはやや気になるところがあります。そのあたりの火消しという意味では小幅な利上げを実行する正当性がないとは言えないでしょう。また、ドル高是正の声が米国内で上がっていることは事実であり、今日の主要通貨に対するドルの弱含みからなにかきな臭さを感じる部分もあります。

黒田総裁が失言したとは思わないし、ある考えがあっての発言だったと私はにらんでいます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 6月11日付より

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