「野党精神」は如何に生まれたか --- 長谷川 良

日本の与党第1党は自由民主党であり、野党第1党は民主党だ。野党の岡田克也代表は与党自民党の安倍晋三政権を批判する立場にある。野党代表が与党の政策を擁護したり、称賛でもすれば野党の立場を失うことになる。ただし、岡田代表をみると、出自が保守派であり、その思考や世界観は完全には野党とは言い切れないのではないか、という印象を受ける。

野党精神は本来、立場や地位から生まれてくるものではない。岡田代表がある日、民主党議員から自民党議員に変わったならば、立派な与党議員として野党側と堂々と論争できるのではないか。岡田代表はたまたま民主党代表だから、野党としての立場を維持しているだけではないか。すなわち、岡田代表は生来、野党精神とは遠い世界の住人ではないだろうか、と推測する(当方の独断)。岡田代表とは好対照なのは菅直人元首相だろう。菅直人氏からは政権入り後も野党精神を強く感じたものだ。

野党精神は立場や地位から起因するものではなく、やはりその生い立ちや家庭環境から自然に培われてくるものではないか。岡田代表はその出自からやはり保守的であり、その世界観は改革を叫ぶ人ではなく、現在の環境を守ろうとする気質のほうが強いのではないか。岡田代表を批判しているのではない。人には生来、野党精神が強い人と、そうではない人がいる。岡田代表はたまたま後者に属する政治家ではないか。

それでは、野党精神がどこから生まれてくるのか。当方は「愛された経験」の有無が決定するのではないか、と考えている。幼少時代から親から愛された経験が豊富な人は野党精神が乏しく、現状を受け入れるようになる。そのような人にとって、変わらないことが重要だ。一方、愛された経験が乏しい人にはやはり野党精神が生まれくる。批判精神と言い換えることもできるかもしれない。愛されなかったのだから、現状を変えない限り、永遠に愛されない。だから、現状を肯定することは出来ないから、批判しなければならない。これこそ個人レベルの野党精神のルーツではないか。私たちにはどんなに強がりいってもやはり「愛されたい」という欲求があるからだ。

「野党精神」は単に個人レベルだけではない。民族、国家へと拡大、波及していく。長い植民地時代などを経験した民族(愛されず、圧政された民族)には自然と野党精神が培われていくものだ。圧政者への恨みが野党精神を成長させていく。

2つの民族を例に挙げてみる。ポーランド国民は冷戦時代から野党精神が強い。同国で旧東欧諸国の民主化(独立自主管理労組『連帯』)運動が始まったのは決して偶然ではない。ポーランドの場合、過去、3度、プロイセン、ロシア、オーストリアなどに領土を分割され、国を失った悲惨な経験を味わっている。だから、為政者(統治者)に対する批判精神は鍛えられていったが、統治能力は十分成長せずに今日に到っている。

チェコ国民も昔から野党精神が強い、同国は欧州連合(EU)加盟国となった後もブリュッセル主導の政治への批判の声が強い。その背景には、ヤン・フスの宗教改革に関連した反カトリック主義があるといわれている。

ヤン・フス(1370~1415年)はボヘミア出身の宗教改革者だ。免罪符などに反対したフスはコンスタンツ公会議で異端とされ、火刑に処された。同事件はチェコ民族に今日まで深く刻印されてきた。歴史家たちは、「同国のアンチ・カトリック主義は改革者フスの異端裁判の影響だ」と説明しているほどだ。同国の野党精神は反カトリック主義、反EU精神となって今日まで如何なく発揮されてきた。ちなみに、今年はヤン・フス死後600年を迎える(「『フス事件の克服』を問われるチェコ」2011年5月26日参考)。

最後に、聖書の世界から野党精神の起源を探ると、やはり人類最初の殺人者となったカインに遡る。神は弟アベルを愛し、その供え物を受け入れたが、カインの供え物は拒否された。カインの「神から愛されなかった」という思いが弟アベル殺しを引き起こしていく。私たちの心にある野党精神は、この「愛されたかった」というカインの切ないまでの叫びがDNAとなって今日まで連綿と継承されてきたのだろう。

「あいつは批判ばかりする」「協調性のない人間だ」―などと反発され、相手から嫌われる人はどの社会でもいる。俗に言うと、「野党精神」が旺盛な人間だ。彼らは相手の欠点を素早く見つけて、それを追求することに長けている。そのような人間をうまく使いこなせば、組織やグループは活性化するが、使いこなせなかった場合、組織は破壊される危険性が出てくる。「野党精神」のルーツを知り、それを健全に成長させていくことが大切なわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。