絶歌、殉愛、朝日など、活字業界のモラルについて

2015年06月18日 08:00

神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗こと、元少年Aの著書『絶歌』が出版され、誰もが簡単に予測できるように、被害者遺族をはじめ『何で、こんな本を出版したんだ!』という声が日本全国から上がっているようです。

ですが、この本は非常によく売れているようで、現在、アマゾンでは売り上げ一位となっています。しかも、正規品が販売されておらず、送料を入れると4千円前後というプレミア価格となっている中古本のみが販売されているのにも関わらずです。なので、版元の太田出版だけでなく、一部のネットで背取りをやっている方にとっても、絶歌プチバブルが起きていることでしょう。

さて、私は相手が犯罪者であっても、言論の自由はあるべきだと思います。なぜなら、世間の空気や誰かの判断で出版が差し止められるという事が認められると、それをきっかけに社会から言論の自由がなくなってしまう事だってありえると思うからです。極論を言えば、犯罪者の本を出版するなという世間の空気があるから出版を禁止するという社会は、世間が戦争賛成という空気だから戦争反対という本を出版出来なかった戦前と同じ構造だと思います。誰もが自由に言論活動を行えるという事は、他人の賛同できない言論に対して寛容でなければ成り立たないと思うのです。

ですが、この絶歌という本に対しては、言論の自由という複雑な事柄以前に本のクオリティーの低さを感じます。そのため、言論の自由とは別次元の理由で、出版すべき本ではないと思いました。その理由の一つ目は、元少年Aという名前で本が出されている点です。もし、元少年Aが本気で世間に訴えたいと考えているのなら、本名で自分の考えをしっかりと述べるべきだと思います。自ら犯した罪を全て背負って世間に訴えられない文章などは、少なくとも私には魂の籠ったメッセージには思えず、単なる小遣い稼ぎとしか見えませんでした。

二つ目の理由は、描かれている内容が本人の記憶にすぎないという点です。もちろん、本人が体験した事を語るのですから、本人の記憶しか手がかりはないのかもしれません。ですが、本人しか知り得ない記憶など、本を売るために捏造しようが周りは検証のしようがありません。もちろん、日経新聞の私の履歴書に登場する社長さんの身の上話なら、本人の記憶だけが根拠で多少話が盛られていても大きな問題ではないと思います。しかし、あれだけの犯罪を起こした人物の本であれば、多かれ少なかれ、専門家やジャーナリストや支援者などによる、元少年Aが語っている事が事実であると感じている第三者の声などが不可欠だったような気がします。

そういった理由から、この本を出版した太田出版がいくら『この本を世に出す意義がある』と弁明しても、お金をかけて本気で編集している感じがしないブログに毛が生えた程度の内容なので、私には金儲けの匂いしかせず、出版意義は全く感じられませんでした。なので、この本の感想をシンプルに言うと、太田出版の出版モラルの低さだけが後味に残るというだけです。

それにしても、最近、メディア不況と言われて久しいためか、出版社などのモラルの低さが目立っているような気がします。この問題でスグに思い出されるのが、百田尚樹氏の『殉愛』騒動です。この本は、故・やしきたかじん氏の最後が書かれたノンフィクション小説という事で発売されました。しかし、蓋を開けてみれば、キーパーソンとなる関係者にほとんど取材を行っておらず、未亡人の話ばかりが根拠で展開されている内容です。この本も、絶歌と同じように金の匂いしかせず、何の出版意義も感じられません。

他にも、朝日新聞の慰安婦の誤報問題も、センセーショナルであれば文章が売れると思って作られた絶歌殉愛と同じ所に原因があると私は思います。この様に、今の日本の活字業界において、この様な例をあげようと思えば枚挙にいとまがありません。そして、出版不況がますます酷くなって行く事が予想されますから、きっと、この様なクオリティーの低い大型本も増えて行く可能性もあるでしょう。

では、そういうのがよろしくないと思う、読者は何をすべきなのでしょうか。それは、一度でもモラルに反する様な事をした出版社や新聞社を、もう一切相手にしないという事が重要なのだと思いいます。なぜなら、『ペンは剣より強し』という言葉もありますが、実は活字で商売を行うというのは気楽すぎる面があるからです。よく私はこれを例にあげるのですが、小さい居酒屋だって食中毒を出せば死人が出ていまします。一方、活字で書かれている事に嘘が入っていうようが、食中毒の様に読者がバタバタと死んでいく様な事態は起こりません。なので、投げやりに活字で商売をしようと思えば、他の業界とは違い、いくらでも楽ができてしまうのです。

そういう業界なので、本のクオリティーが低すぎると読者が出版社にいくら抗議をしようが、読者の抗議自体が話題になったりして出版社は『あー、儲かった!』で終わりです。というわけで、一度でも食中毒を出したお店にはあまり行かないように、一度でもレベルの低すぎる本を出した出版社の読者にならない事をお勧めします。そういう厳しい読者が多くなれば、出版社も自ずから本のクオリティーを上げざる得なくなると思います。

【※Twitter @wr_ryota か、「マスコミ」もう一つの読み方 | Facebookに書き込みを下されば確実に返信いたします。また、著書の「朝日新聞」もう一つの読み方には、金儲けしか目にないメディアの裏側を書いているので、今回の記事に興味が湧いた人にはオススメです。】

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
渡辺 龍太
ニュースや情報番組などを中心に活動する放送作家

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑