TPPの行方

12カ国の閣僚がこれだけ努力しても乗り越えられないハードルの高さにギリシャ問題で苦しんでいたEUの首脳会議の記憶が重なったのは私だけでしょうか?しかし、EUの会議は焦点が一つであったもののTPPが目指している目標は国の成熟度、経済規模、人口などバラバラな中で切り口は無数にありました。

概括すれば95%までほぼ到達し、僅か、乳製品と医薬品という項目が残っただけでしたが、決着には至りませんでした。もしもTPPを通じて環太平洋諸国がEU並に風通し良く、コミュニケーションを通して問題解決能力があることを見せつけるつもりがあるならば1週間後でも2週間後でも夏休みを返上してでも直ちに集まる気迫を見せてもらいたいものです。EUはギリシャ問題を徹夜と度重なる緊急ミーティングで乗り越えてきました。

8月下旬に再度会議、という声はあるようです。ただ、今のところ各国の予定の調整がつかないということのようですが、やる気があるなら鉄は熱いうち打てと言われるようにこの夏休み中の宿題として片づけないと新学期入りはないと考えた方がよいでしょう。

今回はニュージーランドが乳製品で譲らなかったとしています。考えてみればTPPはシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランドでスタートし、9年前の2006年に既に発効しています。つまり、日米などはこの4カ国に乗っかろうとしていたのですが、原加盟国から「わがままを言うのではない」と諭されたようにも見えます。

報道からはニュージーランドが悪いということになっていますが、同国の反乱は日米に対する挑戦の様にも見えました。

さて、この「予定外の調整失敗」に最も焦っているのは安倍首相でしょう。とにかく、ここにきて様々なことが裏目に出ていて安倍首相が笑った顔をしばらく見ていない気がします。国立競技場に安保関連法案、さらにTPPではちょっとツキがなさすぎる気もします。日程的に自民党の総裁選挙を9月に控え、その頃は安保法案で燃え上がっている時期にも重なります。今朝のNHKニュースでは総裁選に安倍首相の無投票再選の可能性も指摘されていましたが、逆に強力な対抗馬がいれば追い落とされる可能性すらあったともいえます。

TPPの今後の展開としては場外戦でどこまで詰められるか、でしょうか?政治決着の域にあるようですので問題を残す日本、アメリカ、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、マレーシアあたりのすり合わせがキーとなりますが、個人的にはどこかで合意できる可能性はまだ相当高いとみています。オバマ大統領も民主党を敵に回しながらもレガシーとしてやり遂げるにはもう時間がないでしょう。カナダも景気減速感が明白になっている中で秋に総選挙を控えています。この数週間がクリティカルであることは間違いありません。

ただ、TPPに対する風向きが以前より厳しくなってきた感じも無きにしも非ずです。TPP不要論の声も大きく、昨日申し上げたようにメリット、デメリットをもう一度並べてみる必要もありそうです。特にここにきてアメリカの利上げ期待も手伝い、各国通貨は数年、あるいは十数年ぶりの安値を付け始めています。正に基軸通貨ドルのなせる業ですが、「アメリカはそれでも地球の中心である」ことを裏付けているともいえます。これが逆に各国の譲歩への抵抗感を植え付けているのかもしれません。

また仮にTPPが発効した場合、その時点で各国のそれぞれの産業の優勝劣敗は固まりやすくなるのではないでしょうか?正にユーロ圏の様に構造的な箍をはめることによりメリットよりデメリットが多い国、あるいは伸び盛りの産業の芽を摘むことがないとも言い切れないでしょう。勿論、実際に発効しても十数年かけてゆっくり調整していくものですからある日突然空模様が変わるわけでもありません。が、経済がきちんと廻っているときは声が出なくてもあるきっかけで不景気の嵐でも吹けばどこからどのような声が出てこないとも限らないのも世の常です。

安保に国立競技場同様、TPPも国民にもう一度ゆっくり考える機会を提供すべきでしょう。

この夏は熱い議論が各方面で繰り広げられそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月2日付より