金正恩氏が「成長の証」を誇示する時 --- 長谷川 良

2015年08月18日 10:20

当方はそのニュースを読んでから考え続けているが、すっきりとした答えが見い出せないでいる。「当方氏は暇なんですね」と笑われるかもしれないが、答えが見つからないと、落ち着かなくなる。別のテーマを考えている時でも頭のどこかで「なぜだろうか?」と考えているのだ。性分だから仕方がない。

北朝鮮当局は15日から平壌時間を導入した。隣国日本と韓国とはこれまで時差はなかったが、今後30分の時差が生じる。具体的には、日本は平壌より30分間早くなる。平壌は日本より30分間遅くなる(北朝鮮はサマータイムを利用していない)。

北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は7日、「最高人民会議常任委員会はわが国の標準時間を定め、平壌時間と命名する政令を発布した」と報じた。その理由を、「日本帝国主義者は長い歴史と文化を誇っていたわが国の領土を踏みにじり、民族抹殺を繰り返し、わが国の標準時間まで奪っていった」と歴史的背景を紹介し、「祖国解放70周年を迎え、30分時差導入の決定を下した」と説明している。

韓国メディアによると、朝鮮半島では過去、1908年、「30分時差」が導入されたが、1910年の日韓併合後、廃止された。終戦後も1954年の李承晩政権時代に再導入されたが、朴正煕元大統領が1961年に政権に就任すると再び元に戻されるなど、「30分時差」は結構、紆余曲折があったのだ。

海外生活をしていると、時差には慣れてくる。オーストリアにいると、例えば、英国との時差は1時間、モスクワとの間にも同じく1時間の時差がある。ただし、前者の場合はオーストリアが早く、後者では遅い。全豪テニス選手権や米国のスーパーボールの場合、時差のため深夜から早朝にかけてTV観戦することになる、といった具合だ。

ところで、問題は金正恩第一書記はなぜ、この時、「30分時差」導入を決めたかだ。KCNAが報じたように、祖国解放70周年が契機となり、奪われたものを取り返す、といったシンプルな思いが湧いてきたのか。それとも「主体暦」といった独自年号を考えた父親に倣い、何か独自のものと考えていた矢先、飛び出したアイデアだったか。何でもいいから変わったことをし、世界を驚かせたい、という若者の素朴な欲望の発露に過ぎなかったか。独裁者は年号ばかりか、歴史も自身の好みに変えることを躊躇しない。時差ぐらい、問題ではない。

父親・故金正日総書記から政権を継承した直後、金正恩氏が手をつけた仕事は、綾羅人民遊園地の完成、平壌中央動物園の改修、そして世界的なスキー場建設など、国家プロジェクトと遊戯用インフラの整理だったことを思い出すと、「30分時差」導入は国民の生活向上には意味がないという点で過去のプロジェクトと大差はないが、歴史的背景と政治的理由は一応整っている。すなわち、金正恩氏は「30分時差」導入を発布することで指導者として“成長の証”を誇示したい、と考えたのかもしれない(当方はこの「成長の証」説に傾いている)

北朝鮮は今年10月、労働党創建70周年を記念し、4回目の核実験を実施すると予想されている。金正恩氏は今、指導者としての成長を国内外に誇示したい衝動に駆られているのだ。それだけに、平壌から今後、「アッ!」とビックリするニュースが届いたとしても驚いてはならないだろう。

ちなみに、韓国のメディアが「金正恩第1書記は民族だけではなく、時間も分断してしまった」と書き、平壌の一方的な「30分時差」導入を批判していたのがとても印象的だった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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