アマゾンはアメリカ版ブラックか?

岡本 裕明

16日のニューヨークタイムズ一面。Inside Amazon: Wrestling Big Ideas in a Bruising Workplace (アマゾンの内情:辛い職場での業務との戦い)が話題になっています。超長文の記事でアマゾン社員の実態を暴き、日本で言うブラック企業ではないか、という疑問符をつけています。

一読する限りニューヨークタイムズが左巻きの新聞であることを踏まえ、ここに取り上げられている実例が極端なものに偏っているのではないかという気はします。よって、何処までを信じるかはこれからアメリカ世論の展開を見る必要があります。

会長のジェフ ベゾス氏はこの記事を受けてすぐさま会見をしています。「こんな会社なら俺だって働きたくない」と。更に「でも俺は毎日この会社に通っているが、そんな会社ではない」と強く否定しています。

どう辛いのか、といえばその評価システムにありそうです。成績が悪ければ一年に一度の会議で首を切られる、病気や流産でもそのメンタルが治癒するまで待ってもらえず、まるで機械の様に仕事をさせられる、などなどであります。これに対してベゾフ氏が「俺はそんな話、知らない」と述べていますが、社風として作り上げたものがあるのかもしれません。その点、ふと東芝の社長が3日で120億利益を生み出せといって不適切な会計処理に手を染めた社風に共通点がないともいえません。

ベゾス氏は創業者であり、圧倒的影響力を持っています。今や、ウォールマートを凌ぐ力と将来性、成長性も誇ります。一方で彼のマネージメントスタイルはあまりポピュラーではありません。次々と資金を投資に回すばかりで株主に配当をすることを劣後させるため、株主総会では株主が不満たらたらといったことがしばしば起きています。

そして彼のやることはキンドルを他のタブレットと比べ破格の低価格で販売し、アマゾンの囲い込みをしようとします。キンドル一つ売ればいくら損するという話でも「これも将来への投資」で片づけてしまいます。これがベゾス氏のビジネススタイルであります。

そういう意味では剛腕という表現がふさわしいのかもしれません。厳しい社風だからこそ、社内には笑いはなく、楽しくないと書かれています。本社があるシアトルにはアメリカを代表する企業がたくさんありますがこの地には人を楽しませる企業が多いイメージが強くあります。スターバックスコーヒーにしてもコストコにしても従業員が楽しく、そしてそのチームワークで企業が成長していく典型的なアメリカンな企業であります。

それに対してベゾス氏のアマゾンはまるで日本のブラックと騒がれた企業たちと同じような暗い、数字だけを追う企業のように見えます。以前、ウォールマートで働く従業員の賃金が安すぎることが問題になりました。トップは何十億円という収入があるのに時給10ドルにも満たないで働かさせられていると悪評がたち、賃金の改定を行わざるを得ませんでした。

組織で働くのは給与以外の刺激があることにも意味があります。そこで時間を過ごすことに自分の成長の糧を見出せたり、仲間と切磋琢磨するのが楽しいからということもあるでしょう。一日8時間かそれ以上の時間を会社で過ごすのはある意味、寝ている時間を除けば家族と過ごす時間より長く、週5回、仲間たちとコンスタントに接しなくてはいけません。

が、上司からいじめられ、管理され続け、笑いがない職場には組織力が生まれにくくなります。今回のアマゾンの記事は成長する巨大企業、アマゾンだから書かれたものでしょう。アメリカを代表する企業であるが故のアメリカが大好きな懲罰的記事だろうと考えています。ですから、マクドナルドやマイクロソフト、トヨタが経験したような議会の公聴会に発展する「儀式」を経て、一流の証をもらうのかもしれません。

それが嫌ならベゾス氏が買収し、所有するワシントンポストで反論を記事にすればよいとも思いますが。
しかし、内容的には日本企業には当たり前のような気もします。にぎやかで楽しそうな仕事風景の日本企業なんてゾゾタウンのスタートトゥディぐらいじゃないでしょうか?(笑)

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月19日付より