食品業界の新たなるトレンド

岡本 裕明

私がカフェを経営していた時、使っているコーヒー豆を「フェアトレード」に変えたのはまだそれが市場で十分に認知される前でありました。コーヒー豆を栽培し、収穫している農家はとても厳しい労働条件で応分の賃金を貰っていないのに我々はそれを放置し、より品質の良い豆をより安く仕入れることばかりにとらわれ過ぎている、という疑問が始まりでありました。

取引していたロースター(焙煎業者)は一般豆とフェアトレード豆を両方扱っており、仕入ベースでだいたいキロ当たり2-3ドルの差がありました。フェアトレードとは何か、と説明する紙を貼りだし、フェアトレードのステッカーを張り、顧客への啓蒙を続けました。どれだけ売り上げに効果があったか調べようもないのですが、カナダ人はこういう発想が大好きで概ね、好評だったと認識しています。まさにフェイスブックの「いいね」でありますが、だからといってコーヒーを買うかどうかは別だった気がします。

北米のマクドナルドがエッグマフィンなどに使う卵を平飼い(Free-run=屋内での放し飼いで鶏にストレスがかかりにくくする)に変えていく方針を立てたことはこのブログでもお伝えしていますが、フォーブスによるとアメリカの動物保護団体が諸手を上げて喜んでいるそうです。平飼いや放し飼いの家畜がおいしいかどうか、これは食の専門家に任せますが、うまそうな感じがするとは言えそうです。日本人は魚でも養殖物と天然ものでは大きな価値の差を感じています。天然物は肉の締まり方が違う、とはよくコメントされています。

そのマクドナルドはイメージチェンジのため、うまさを追求するというより、ニワトリのストレス発散の為、平飼いの卵を使い、莫大なコストと手間暇をかけざるを得なくなったともいえます。これは人々の価値観の変化であり、それを満たすために経営者の努力はより厳しく高いものが要求されるということでしょうか?

北米のスーパーマーケットで自分の買い物袋を持っていくことはもはや常識となりつつありますが、それはビニール袋に一枚5セントのコストがかかるというより5セントの罰金を課せられるという認識の方が強い気がします。袋を持っていないと後ろに並んだおばさまから「あなたはエコに非協力的ね」という白い目で見られている気すらするのです。ですから5セントをチャージしないセーフウェイは企業イメージとしては悪くなってしまうのであります。

スーパーマーケットでその最先端をいくのがホールフーズ(Whole Foods Market Inc.)であります。アメリカ、カナダ、イギリスに431店舗を持ち1兆5000億円程度の売り上げを誇ります。この店の特徴は所得水準が高くオーガニックフードに対する高い理解度を持つような人が住む地域に多く出店していることでしょうか?

週末となれば溢れかえる客はそこで購入することを一つのプライドとしているようにすら見えます。それはエキストラのお金を健康のために使うというより通常品質の商品と明白なる差別化を自分自身の満足感にすり替えているようにすら見えるのです。

そのホールフーズの顧客は喜んで価格差を受け入れてきたもののトレーダージョーズといったライバル店の出現のみならず、ホールフーズが廉価版である「365」という新ブランドを立ち上げることでホールフーズ自体とのシェア争いに臨んでいるようにも見えます。経営的にはピーク感がありますが、それは人々の社会正義に対する突っ張り方も長くは続かないということなのでしょうか?

そういえばここバンクーバーは「オーシャンワイズ」という環境に優しい漁獲方法による魚を提供する運動の発祥地であります。レストランに行けばシーフードのメニューのところにオーシャンワイズのマークがついているのに気が付くと思いますが、これなどは乱獲問題でいつもそのターゲットにされる日本で少し取り入れた方がよいかもしれません。

こうやって並べてみるともはや食に於いてただ単にうまければよいという提供の仕方では世界基準を満たせなくなっているとも言えそうです。日本では一部で旨そうな低価格の牛肉を作るため、健康的ではない肉もあるようで内情を知る人は食べないとも言われています。フランスのフォアグラはガチョウに大量のえさを与えるため世界の批判の的となりました。

食にうるさい日本人がもう一歩踏み込まなくてはいけないのはこのあたりの分野なのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月5日付より