共産党は、やはり「選挙目当て」

民主党などとの連立構想を表明している共産党の志位和夫委員長が日本外国特派員協会で記者会見で述べた「自衛隊と日米安保条約」容認発言は驚いた。というのは正確ではない、「やはりそうか」という思いもあったからだ。

志井委員長の発言は、1994年に自民、新党さきがけと連立を組んで首相となった社会党の村山富市委員長が「自衛隊は憲法違反」「日米安保反対、非武装中立」という党是を翻し、「自衛隊は合憲」「日米安保体制堅持」と表明したのに匹敵する。

政権をとるためなら、なりふり構わず党是を簡単に反古にするのか、と批判された。だが、「政権さえとれればいい」という姿勢を考えれば、当時の自民党も似たような体たらくだった。

細川政権誕生で権力の座を追われ、その「空しい日々」に耐えられず、政権さえとれるなら誰とでもと、180度考え方の違う社会党と手を握った。その節操の無さを苦々しく思っていた保守層も少なくなかった。

そこで今回の仕儀に「共産党よ、お前もか」と驚くとともに「やはり、そうか」と感じた次第である。その点、菅義偉官房長官は「選挙目当て」と批判したのは当っている。

志位氏はツイッターで、連立構想には「政府が破壊した立憲主義を回復する大義」があると反論。「選挙目当てとしか批判できないの? 政府の知的貧困は深刻だ」と記した。

しかし、志井氏の言う「立憲主義の回復」とはこのほど成立した集団的自衛権容認に基づく安保法制の廃棄ということだ。そのために民主党と連合政権を組むのであり、「日米安保条約を廃棄する大方針を変更するわけではない」と強調する。あくまで連立政権時のみの対応とするとうのである。

しかし、これは支離滅裂の議論というしかない。憲法9条を素直に読めば、「戦争で国際紛争を解決しない、武力は放棄する」というのだから、武力集団である自衛隊は違憲である。日米安保条約も米国が日本のための防衛「戦争」をする条約なのだから、厳密には9条違反である。

で、共産党は「9条を守れ!」と自衛隊と日米安保条約に反対してきた。それなりに一貫しており、筋が通っている。それを翻すのはなぜか。「安保法制を廃棄したい。それほど重要なテーマなのだ」というのだろう。

では、それほど「自衛隊・安保条約」容認と「集団的自衛権」容認の間に超えてはいけない決定的な差はあるのか。

その差とは、「自分で戦うか」「米国に守ってもらうか」「時には米軍も守るか」ということだろう。自衛隊は自分で守るのだが、「それは相手が攻めてきて、どうしようもなくなった時」だけで、基本的には「米国に守ってもらう」。これがこれまでである。憲法9条をなし崩しにしてきた、従来の解釈改憲である。

ところが、集団的自衛権を容認する(新しい解釈改憲だ)と、「自分で自分を守るのは当たり前」「時には米国の軍隊を守るために戦わなければならず、まごまごすると日本から遠い中東や大西洋にまで自衛隊を派遣しそうな雲行きだ」「将来は徴兵制施行にまで発展するかも知れない」

共産党や民主党は、こういう不安をあおることで、集団的自衛権反対の有権者を増やしてきた。今の空気なら安保法制反対で連合政権を組めば、政権をとれるかも知れない、と思ったのだろう。

有権者の大半は米国に守ってもらう安保条約や、専守防衛だけの自衛隊は万一の時に必要だと思っている。「その彼らが不安に思わないよう、自衛隊と安保条約は容認しよう」と判断したのに違いない。

そのココロは政権奪取。風が吹いている今のうちに政権をとってしまおうという考え方だ。「選挙目当て」と言われて仕方もがない。
 
志井氏は「政府が破壊した立憲主義を回復する大義」があると反論しているが、自衛隊と安保条約の容認は憲法9条を逸脱しており、十分、立憲主義を破壊していることに、志井氏は気付いていない。

集団的自衛権は立憲主義の破壊の度合いが進んでいると言いたいだろうが、逸脱の幅の議論にすぎない。「日本をどうやって守るか」と考えれば、米軍の予算削減と中国・北朝鮮の脅威増大が現実化している今、集団的自衛権容認に踏み切るのは妥当なのである。

国民もうすうすそのことに気付いている。でも、「できるだけ米国に守ってもらう路線を維持し、自分たちで戦う破目に陥ることはしないでほしい」と、多くの有権者は虫のいいことを考えている。

だから、安保法制の世論調査をすると反対の方が多いのだが、安倍政権支持率が最大である状況は変わらない。正確に言えば支持政党なしが一番多いのだが、成熟した民主社会では自然な状態であり、彼らは安保法制反対だけで安倍政権を追い落とすかどうかは疑問である。

自分で守らずに、時に米軍と共闘せずに、国も自分たちも守れないということを知っているからだ。虫のいい考え方だけではやっていけないことに気付いているからだ。

今、そうした社会状況に成りつつある。その中で共産党までが自衛隊を容認したのだから、池田信夫氏の言うように、この際、憲法9条の改正を議題に挙げて国会で論戦するのが望ましいのではないか。

軍隊と軍事行動をどこまで認め、どこからは認めないか、を議論する。それは国民が「自分のことは自分で守る」という当然の議論に向き合うためにも大切なことだ。

井本 省吾